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ライアー総合SS&小ネタスレッド

1 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/14(金) 21:29 ID:???
ここは歴代の嘘屋作品に関するSSや小ネタを、自由に投稿するスレッドです。

・ギャラハッドに斬られないよう、お互いにエチケットは守りましょう。
批評の範囲を超えた煽りや職人への攻撃は禁止。

・喝采が無くても泣かないこと。

・職人はクロスオーバー作品や原作を激しく逸脱するオリジナル追加設定は、
時に不快に思う人がいることも認識しましょう。
 職人が作中に登場するようないわゆる“ドリーム小説”は、ほぼ受け入れられないと思った方が無難です。
どうしても書きたい時には独自にスペースを用意してそこで発表しましょう。

・ネタバレに注意。

2 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/14(金) 21:33 ID:???
とりあえず立ててみました。

・未プレイ者の為に原作は明記しましょう。
↑これは要るかどうか判らなかったので、保留扱いでここに。
その他のルールは住民同士話し合って決めていけばいいかな、と。

それでは自分も何か投稿できるよう、脳みそをこねくり回して来ます。

3 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/14(金) 21:36 ID:???
・自サイトからの転載はOK。但し当然ながら第三者による無断転載は厳禁。
面白いSSを見つけたとしても、紹介するだけに留めましょう。

↑これも追加した方が良いかな。

4 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/14(金) 22:08 ID:???
あやや、本スレに告知しようと思ったらアク禁くらってる;;

5 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/16(日) 12:12 ID:???
|~~~~~~~|
|  誠  | 
|▲▲▲| 
|~~~~~~~      
|      _
|    ,.'´   ヽ
|     ! イノ√'ハ)
|    l (!l.゚ ‐゚ノ|  <よし、過去ログから発掘してきてやろう。
|    ノ,<,l!、><リ    
|    くノノ/ |i_〉
|      lメ lメ   


6 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/16(日) 12:19 ID:???
632 名前:名無しさん@ピンキー投稿日:2005/06/01
豊玉なんてよっぽど興味のある人しか知らんよ
特にヘタレだとわかるのはヲタと呼んでもいいくらい


633 名前:名無しさん@ピンキー投稿日:2005/06/01
キジも鳴かずば撃たれまいに……


634 名前:名無しさん@ピンキー投稿日:2005/06/01
副長が>>630-632の三人とも地下室に来るよう言ってたよ


635 名前:名無しさん@ピンキー投稿日:2005/06/02
 +  ∧_∧
    (0゚・∀・) + ドキドキ
  oノ∧つ⊂)   ∧_∧ +
  ( (0゚・∀・) +(0゚・∀・)    ワクワク
  ∪(0゚∪ ∪  (0゚∪ ∪ +     テカテカ
 +  と__)__)  と__)__) +


636 名前:名無しさん@ピンキー投稿日:2005/06/03
     ||          ||           ||   
     ||.   ¶      ||.   ¶       ||   ¶
  ⊂~⌒⌒~⊃   ⊂~⌒⌒~⊃   ⊂~⌒⌒~⊃ 
   ミ≡≡≡j     ミ≡≡≡j     ミ≡≡≡j  
   ミ≡≡≡j     ミ≡≡≡j     ミ≡≡≡j  
   ミ≡≡≡j     ミ≡≡≡j     ミ≡≡≡j  
   ( 。∀。)     .( 。∀。)     .( 。∀。)  
    V V       V V       V V   

7 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/16(日) 12:22 ID:???
島田「副長、貸本屋でこんなものがありました」
土方「何々…『秘密の新選組』? …島田、腹を切るか?」
島田「いきなり何でですか!?」
土方「秘密とは何だ!?これは世に言う「ばくろ凡」と言うのではないか!!
監察の任を怠っているからこんなものが世に出回るんじゃないか!?」
島田「ちゃんと任はこなしてますよ… あぁ、こないだ土方さんとまぐわった時
土方さんの声が大きかったからそのことかもしれませんね」(・∀・)ニヤニヤ
土方「な…!? /// …貴様…やはり切る!!」
島田「とにかく、処罰は本を読んでから決めてくださいよ。
もしかしたら、良いことが書かれているのかもしれませんし」
土方「そ、そうだな…取り乱した 読んでみれば分かる…か」

現在回覧中…

土方「…島田ー!!!!」 バキャー!!
島田「うぼぁ!!」

8 名前:カモちゃんさんのSS(前編) 投稿日:2007/12/16(日) 12:30 ID:???
「るんるんる〜ん☆」

前を歩く真っ直ぐな背中。羽織の鮮やかな青が日に輝いて揺れている。
いつもと変わらない底無しの元気さ。

「ね〜。そろそろいいよねぇ」
「だめです」
「えーっ」

巡回の途中ですぐ寄り道をしようとする。目を離すとすぐいなくなるし。

「あそこの茶屋で休んでいこうよ〜」
「今そこの屯所を出てきたばかりでしょう…」
「ぶー、休みたいよ〜」

休みたいよ〜。休みたいよ〜。休みたいよ〜。
放っておくとずっと言い続けるつもりか。

「ほらほら、新しい見世物小屋」
「ねえ、可愛い子いるよ、一緒に食べちゃおうか」
「あの帯良いよね、欲しいなあ。欲しいなあ」(じーーー)


…。
これは巡回だ。芹沢さんとの散歩じゃない、はずだ。
物陰に隠れてこちらを睨んでいる浪人者とか目つきの悪い町人とか。
キンノーとかキンノーとかキンノーとか。おまちちゃんとか。
みんな気のせいだ。

あまり自信はないけど。


9 名前:カモちゃんさんのSS(中編) 投稿日:2007/12/16(日) 12:30 ID:???
っていうか手を出してこない限り、ただの背景でしかない。
こちらも普段ならすぐ連中を追いかけたりするが、今はそんな気になれない。

「らんらら〜ん☆」

この人がいるから。

「退屈だよね」
「それが一番です」
「そお?」

下手な騒ぎになるとカモちゃん砲が出てくる。だから追いかけられない。
向こうも彼女がいるから手を出さない。


───ん?

「気持ちいいねー、晴れてて良かったあ」
「そうですね」
「たまには羽を伸ばさないとね」
「たまにじゃないでしょう」
「言うようになったねえ島田君も」

笑顔でこちらを見る。悪戯っぽくて、無邪気で。
子供のような。


不思議だ。
沙乃や新と一緒に巡回するよりも、ずっと平和じゃないか。

10 名前:カモちゃんさんのSS(後編) 投稿日:2007/12/16(日) 12:30 ID:???
「お茶屋!お茶屋!」
「わかりました、わかりました」
「やったー♪」
「…って、ちょっと待て!そっち違う!それは違うお茶屋!」

待っ…



「言い訳するな…すぐ楽にしてやる」
「まだ何も言ってませんよ!」
「巡回の途中で買い食い、連れ込み茶屋、その他もろもろ…覚悟はできているな?」
「…買い食い?それは覚えが…っていつのまにお菓子買ってんですか!」
「トシちゃんってば…むしゃむしゃ…相変わらず固いなあ」
「あなたが緩すぎるんです!!」
「じゃあ俺…次の巡回行って来ます」
「えー、じゃあまた一緒に…」
「駄目です」
「む〜」
一瞬頬を膨らませる。が、すぐこちらを見てやさしく微笑んだ。
「…ま、今度はしょうがないか。うん。後は任せといて☆」
いってらっしゃーい。気をつけてねー。
「こら待て島田!待たんか!って、離せ!わはははっ!ちょっそこひゃ…すぇdrftgyふじkぉ!」



──さて。

ちょっと腰がくだけてるが、今度はマジな巡回行きますか。
連中が同じ場所で待っててくれると、手間が省けていいんだが。

11 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/16(日) 12:32 ID:???
「お侍さんがた、お待ちくださいやし」
「何か用か?」
「へぇ、勘定のほうがまだでございやす」
六人連れの無銭飲食を咎めたのは地元の侠客、黒田主税
「おお忘れておった」
ドゴォォォーーーーン
カモミールが支払ったのはカモちゃん砲の弾であった

12 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/16(日) 12:35 ID:???
550 名前:名無しさん@ピンキー:2006/07/15
どうでもいいがさっき神田川聴いてた。
「ただ貴方の優しさが怖かった」
というフレーズの度に
妙に優しい副長が頭に浮かんで


…まあなんだ、怖かった。


551 名前:名無しさん@ピンキー:2006/07/15
>550
何をいう、私は優しい人間だぞ?

……貴様に生き恥を晒させない程度にな。介錯はしてやろう。

13 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/16(日) 14:24 ID:???
上のは全部『行殺(はぁと)新撰組』か。
しかし激しく一見さんお断りなスレになりそうだなw

14 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/16(日) 21:15 ID:???
副長お疲れさまです!

行殺スレの歴史を考えれば案外多いのか少ないのか。

15 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/16(日) 22:31 ID:???
>>11を見てメガラの「ああ、やっぱり黒は強い」を思い出した。
落語調だからかな。意外と記憶してるもんだ。

16 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/17(月) 01:23 ID:???
「コンニチハ、聖子サン。木枯ラシガ、身ニ、シミマスネ(トントン)」
「……フラ子か。どうやらこの島国は冬季に入っているようだな」
「オ体ニ、障リハアリマセンカ? トクニ乾燥ハ大敵デスヨ(トントン)」
「なに。この部屋は一見メタトロン星風のようだが、コンピューター制御によって
室内環境は常に快適に保たれているからな。……ん、お前誰に向かって言ってるんだ?」
「チョットすれノ皆様ニ……ゴホ、ゴホ。イエ、オカマイナク。ゴホッ(トントントン!)」
「な、なんだ? 喉でも痛めたか? だからトントン叩き過ぎるのは止めろといつも……」
「いいえ、全く平気よ? ワタシの肉体はこう見えて丈夫なのだから(けろっ)」
「……そのようだな。って、おい! なんだその機械は!?」
「オカマイナク、オカマイナク(トントン)」
「いやいやいや、なんか凄い勢いで湯気が煙が……!?」
「タダノ加湿器デスヨ。乾燥ハ大敵デスカラ(トントン)」
「それにしては視界が……。おい、お前コレ、一緒に胞子撒き散らしてるだろう!?」
「ばれたか。……デモ、オカマイナク。冬の間だけオ借リスルダケデスカラ(トントン)」
「お構いなくって、その間あたしはどこに―――わぁぁあああっ!!!!!?????」




 ……そして四ヵ月後。
 シンイチ達の前に、たくましく冬の寒さを乗り切った大勢のフラ子と、
ボロボロになった聖子が姿を現したとか現さないとか。(どっとはらい)


17 名前:↑メガラ・ショート・ショート 投稿日:2007/12/17(月) 01:24 ID:???
メガラと聞いて書き込んでみた。タイトル(名前欄)入れ忘れは気にするな。

18 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/17(月) 19:32 ID:???
フラ子の飄々としたとこが好きだ

19 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 00:25 ID:???
因果スレ見て初めて気付いた。
が、なんでこんな僻地で展開するんだ?

20 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 00:30 ID:???
スレ建て主曰く
>>さすがに本スレや作品別スレに投稿しちゃうと、好まない人の迷惑になりますしね。
だそうだ。

21 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 00:32 ID:???
なら葱板でも、と思ったが、分母考えると埋没しちまうか。
データ落ちしないらしいし、身の丈に合ってるのかもな。


今後このスレは会報ネタとマーズで埋め尽くされると勝手に予想。

22 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:11 ID:???
じゃあ、俺はインガノックスレから発掘してみようかな。

23 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:11 ID:???
365 名前:名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 00:24:25 ID:Wr+2QvCM0
原初にして最強よわすぐる
せめてこれくらいやってくれないと
レ「たすけて!ラウダトレス!」
ラ「んん〜、つーかァ、<<奇械>>に頼るなッ!!(ボゴォッ」
レ「ひげえええっ!」

うむ、最強


366 名前:名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 00:28:15 ID:ZmUKKZVl0
ちょ、それアルターwwww

24 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:12 ID:???
ギー 「・・・遅い」
アティ「・・・早すぎ」

25 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:13 ID:???
566 名前:名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 16:32:07 ID:/N+1cG+g0
今さっきクリア。

宮崎アニメばりの、世界観の深さと壮大さ。
ひたすら手を伸ばし続けるギーの生き様。
泣きがあるわけじゃないが、それ以上にもっと深く心を揺さぶられた。
何百本とエロゲやギャルゲやってきて、ここまでいいのは久々だわ。
ガチで名作、墓に持って行きたいくらい。


567 名前:名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 16:47:14 ID:ffqIzTEE0
別の意味で親族が泣くからやめれ


568 名前:名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 16:47:41 ID:XG8VscZs0
>>566
実は『インガノック』は過去作の『セレナリア』や『ANGEL BULLET』と
繋がった世界で起きた物語なんだぜ? (今後も増えるかも知れない)

泣けるほど安いからお買い得かも知れないんだぜ?


569 名前:名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 16:52:25 ID:YzRSm4xE0
エンバレ、セレナリア、セレナリアFD、ザ・ガイド
全部買っても諭吉一枚でお釣りが来るヨ。


570 名前:名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 17:03:54 ID:qsqJlLR10
>>566
はやく七橋を買う作業に戻るんだ


571 名前:名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 17:05:47 ID:/X+emVzw0
なぜそこで七橋を勧めるのか?!

>>566
いいものが心に残って良かったなんだぜ
セレナリアとセレナリア・ザ・ガイドはお勧めなんだぜ


572 名前:名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 17:17:33 ID:XG8VscZs0
自分で始めといてなんだが、新興宗教云々言われるのも無理はない連携だなw


573 名前:名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 17:32:19 ID:qsqJlLR10
>>571
そこにライアーゲーがあるからさ


河に落ちた牛に群がるピラニアのようだ


574 名前:名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 17:39:32 ID:WvMNDCS20
スレタイに新興宗教か布教活動ってほいしいな
無茶な布教でつかまるなよw


575 名前:名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 17:48:00 ID:YzRSm4xE0
 ____                           ____
 |←嘘屋|        儲       儲         |嘘スレ |
  ̄ | | ̄     ┗(∵ )┳('A`)┳(∵ )┓三       ̄| | ̄
    | |        ┏┗  ┗┗  ┏┗  三        | |  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


       儲    儲    儲  
   三┏( ∵)┛┏( ∵)┛┏( ∵)┛
   三  ┛┓   ┛┓   ┛┓ 
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 ____                              ____
 |←嘘屋|        儲       儲      儲     |嘘スレ |
  ̄ | | ̄     ┗(∵ )┳(^o^)┳(∵ )┓┗(∵ )┓三   ̄| | ̄
    | |        ┏┗  ┗┗  ┏┗   ┏┗  三    | |  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


       儲    儲    儲    儲
   三┏( ∵)┛┏( ∵)┛┏( ∵)┏( ∵)┛
   三  ┛┓   ┛┓   ┛┓  ┛┓
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

26 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:15 ID:???
ライアーソフトの名コンビがブランド初となる続編物に挑戦した意欲作!
突然現れた謎の少女・キーア。そして《奪われた4人》が暗躍する悲しくも切ないストーリー。

独創的なシステムと予想の斜め上を行く企画設定でお馴染みの同社が、
今回は得意とするバカゲー路線はあえてとらず、過酷な都市で生きる人々の物語、
そしてアダルトゲームとしてのHCGを限界まで減らすなど、
新しい作風へとチャレンジした意欲作となっている。

かつて上層大学に籍を置いた数式医の物語。
そして、ある日とつぜんギーの家へと転がり込んでくる謎の少女・キーア。
人知れず道化師の幻を見る一人の青年が、様々な人々との出会いと別れを経験し、
ついには自分の諦めきれない想いに気付いて歩み出す・・・・。

内容は『心の声』システムとアドベンチャータイプの一本道を採用。
旧態依然としたパートボイスではあるが、両女史の作り出す新しい作品に触れてみてはいかがだろうか。



……ふと思いついてアレを改変してみた。今は反省している。

27 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:16 ID:???
「――やぁ、トリヴィの前のみんな。元気してる?
都市摩天楼が送る通販番組、『喝采のハリケーンミキサー』のお時間です。
今日もお馴染み下層のアイドル、《猫虎》のアンリエットがお相手します。

今回ご紹介する商品はこちら! あの“路地の騎士”も愛用していたというダイエット機関だ!
使い方は簡単。この医療用数秘機関を気になる部分にかざして、20秒ほどクラッキング光を当てるだけ。
それだけでみるみる脂肪が筋肉に置換されて、ル・ビィ特務大尉も真っ青のマッシヴボディに変身だ!
この画期的な数秘機関が、なんとたったの10,000シリング! ……しかも!!
今なら一台分のお値段で、3色の特務大尉がついてきます。

さぁ、今こそキミの望んだその時だ! 震えた人は、レッツ・テレフォン♪」


「数秘機関ってすごいのね……。ギー、あなたも同じこと、できる?」
「……さぁ、どうかな」



――――その翌日――――

――――無限雑踏街の人ごみは――――ー

――――色とりどりの特務大尉で――――ー

28 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:17 ID:???
         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|      あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|『それっぽいCGまで公開されていた
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ メインヒロインのエロシーンがなかった』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人     な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ   おれも何をされたのかわからなかった…
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    エロ薄だとかコンシューマーだとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ  もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…


29 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:18 ID:???
         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『インガノックが開放されて昇天したと
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        思ったらいつのまにかショタになっていた』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        おれも何をされたのかわからなかった
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    現象数式だとかザオリクだとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ  もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

30 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:18 ID:???
               . -―- .      ヤらないッ!さすがギーッ!
             /       ヽ
          //   五樹    ',      おれがにヤることを
            | { _____  |        平然とヤらずにのけるッ!
        (⌒ヽ7´        ``ヒニ¨ヽ
        ヽ、..二二二二二二二. -r‐''′     そこにシビれる!
        /´ 〉'">、、,,.ィ二¨' {.  ヽ     _ _      あこがれるゥ!
         `r、| ゙._(9,)Y´_(9_l′ )  (  , -'′ `¨¨´ ̄`ヽ、
         {(,| `'''7、,. 、 ⌒  |/ニY {       灰流     \
           ヾ|   ^'^ ′-、 ,ノr')リ  ,ゝ、ー`――-'- ∠,_  ノ
           |   「匸匸匚| '"|ィ'( (,ノ,r'゙へ. ̄ ̄,二ニ、゙}了
    , ヘー‐- 、 l  | /^''⌒|  | | ,ゝ )、,>(_9,`!i!}i!ィ_9,) |人
  -‐ノ .ヘー‐-ィ ヽ  !‐}__,..ノ  || /-‐ヽ|   -イ,__,.>‐  ハ }
 ''"//ヽー、  ノヽ∧ `ー一'´ / |′ 丿!  , -===- 、  }くー- ..._
  //^\  ヾ-、 :| ハ   ̄ / ノ |.  { {ハ.  V'二'二ソ  ノ| |    `ヽ
,ノ   ヽ,_ ヽノヽ_)ノ:l 'ーー<.  /  |.  ヽヽヽ._ `二¨´ /ノ ノ
/    <^_,.イ `r‐'゙ :::ヽ  \ `丶、  |、   \\'ー--‐''"//
\___,/|  !  ::::::l、  \  \| \   \ヽ   / ノ

31 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:19 ID:???
      __
    i<´   }\   , - 、
   ヽ.._\./  .ンく r-兮、 __
    ∠`ヽ.! /   ヾニEヲぐ ,ゝ->     さすがインガノックだ。
   /_`シ'K-───‐-、l∠ イ       親に箱見られても
   l´__,/l\、_ ̄0¨0)゙@Yヘ, -┤      何ともないぜ
.    l'___|⌒ヾ''ー==、ーr='イ i二|
   / .」   i   /./7r‐く  lー!
.   f.  ヽ‐i人.∠'<   _i. l,.-ゝ.
    トiヘヘ「ト〈      `X  トレi7__|
   〉ト:トハj`! i.    /  トー┤lルj,リ
  /‐+----+‐l    iー--i---ヾ'〃
.  l_i____i__|   |___i,__i_|

……って感じの日記見つけて吹いたw

32 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:20 ID:???
564 :名無しさん@ピンキー:2007/12/15(土) 00:25:18 ID:SX8/g25J0
「さようなら、ギー」
「あきらめる時だ」


「諦めたらそこで試合終了ですよ」


565 :名無しさん@ピンキー:2007/12/15(土) 00:42:40 ID:04/nhFFS0
白髪のきみ。
我がコーチ、ホワイトヘアーデビル。
ぼくは、きみにこう言おう。

『バスケが、したいです…』


566 :名無しさん@ピンキー:2007/12/15(土) 00:46:56 ID:PQ52XN6r0
バスケって実はインディアンが考案した球技なんだってさ。
西享のグレートチーフが言ってた。

33 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:28 ID:???
759 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/12/18(火) 07:01:32 ID:ysPmcxGv0
ウェンディゴ → 高速の爪の攻撃。避けても死ぬ。弱点が太陽なのに太陽が無い。
ブラッドツリー →無限に増殖。無限に胞子を撒く。全身を同時に破壊しなくてはならない。
パンダースナッチ→電脳空間という自分に有利な場所である故誰にも殺せない。
ゴーレム →あらゆる刃も銃弾も届く前に蒸発する。

こうしてみるとクリッターの能力って皆反則じみてるなー…中2とか邪気とかが頭に浮かんだがそれは置いておこう。
そしてそのクリッターを一撃で倒すポルシオンに33体のザハークごときで勝てると思ってたアステアは
文字通り狂ってるとしか思えない。てかザハークの方がクリッターより強いってのが納得できない。
760 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/12/18(火) 08:59:56 ID:T//EETyx0
反則じみてるかこそ人間の脅威なんだろう
というか``パ``ンダースナッチってw
なんか可愛いな・・・白と黒の動物はかわいいんだよな。とーちゃんが言ってたぞ。
761 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/12/18(火) 09:19:19 ID:syMRI7ZN0
          _         _
         /::::::;ゝ-──- 、._/::::::ヽ
        ヾ-"´         \::::::|    
        /              ヾノ
       ,,.r/    _      _ ヽ  『たかが人間ごときィ…!!』  
       ,'::;'|    /::::::ヽ     /::::::ヽ |   
     l:::l l   (::::::・ノ  ▼ ヽ・:::::) l  
     |::ヽ` 、  、、、  (_人_)  、、、 / 
     }:::::::ヽ!`ー 、_  ヽノ      /   
     {:::::::::::::::::::::::::::.ー―――''"´
     ';::::::::::::ト、::::::::::::::i^i::::::::::::/
       `ー--' ヽ:::::::::::l l;;;;::::ノ
           `ー-"


34 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:39 ID:???
>>26の元ネタはこれだな。27はキャン球か?
ttp://www.getchu.com/soft.phtml?id=36221

35 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:41 ID:???
今日からここはSS発表と『ライアースレの小ネタを転載するスレ』になりました。

36 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:46 ID:???
>>34
沙耶の紹介文だったのかw
なるほど、確かに、ユーザーは作品を正しく理解できないだろう。

37 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/18(火) 21:56 ID:???
キャン玉だな

38 名前:インガノック&腐り姫(盲点) 投稿日:2007/12/19(水) 20:52 ID:???

『あの・・“彼”ったら 私という者が居ながら
 家に女を連れ込んでくるんです。堂々と。
 それも一人ではないんです! 私はどうしたら・・・』

『奥さん、そりゃアンタが悪いよ』

39 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/24(月) 01:05 ID:???
         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『おれは奴と一緒に階段を登っていたと
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        思ったらいつのまにか埋まっていた』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        おれも何をされたのかわからなかった…
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    生き返りだとか時間巻き戻しだとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ  もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

40 名前:『心の声?』 投稿日:2007/12/24(月) 01:06 ID:???

――嘘屋信者。

分類ではマイナーとされるメーカーの信者である。
ライアーソフトの信者であるという報告から、和訳した嘘屋の名を割り当てられている。
これは夜行性であり、何も知らないエロゲーマーを捕食する習性を持つ。
犠牲者の精神と好奇心を自らの滋養として取り込むと言われているが、詳細は不明。
滅多に自分からエロゲーマーを襲うことはせず、感化能力――布教の能力を用いることで、
信者とした人間に更に布教させるのだ。
かつて、キャン玉の頃には、これの配下になった人間がインストール地獄で無残な目にあったという。
大量の犠牲者を生み出した<<バグ>>は、体制変更によって壊滅させられ、嘘屋信者はそれでもまだそれなりにいるという。

41 名前:『Dies irae』スレに出現したクリッター 投稿日:2007/12/24(月) 12:49 ID:???
7 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/12/23(日) 19:54:02 ID:V/5HqWix0
          _         _
         /::::::;ゝ-──- 、._/::::::ヽ
        ヾ-"´         \::::::|    
        /              ヾノ
       ,,.r/    _      _ ヽ  『消えた√は俺が喰った』  
       ,'::;'|    /::::::ヽ     /::::::ヽ |   
     l:::l l   (::::::・ノ  ▼ ヽ・:::::) l  
     |::ヽ` 、  、、、  (_人_)  、、、 / 
     }:::::::ヽ!`ー 、_  ヽノ      /   
     {:::::::::::::::::::::::::::.ー―――''"´
     ';::::::::::::ト、::::::::::::::i^i::::::::::::/
       `ー--' ヽ:::::::::::l l;;;;::::ノ
           `ー-"
 クリッター・パンダースナッチ

42 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/24(月) 20:28 ID:???
よそ様のお宅から引っ張って来てんじゃねぇw
さもテンプレに混ざりたいような顔しやがって。

43 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/26(水) 03:08 ID:???
パンダで定着しちゃったなぁ……。
ひょっとすると、複製体でも作っててあの時から今まで生き延びてたんじゃないか?w

44 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/27(木) 09:40 ID:???
629 名前:名無しさん@ピンキー sage New! 投稿日:2007/12/27(木) 08:25:39 ID:kmWl5mQK0
  ⊂ ̄⊇
。o*( ゚□゚)「………」

                ∧ ∧
   ( ´_ゝ`)─奥さん→(・ω・)
     │
     娘
     ↓
   ( ’∀’)←兄妹→( `ー)-~~
》》_・)


*( ゚□゚)「ギー、提案があります」
( ´_ゝ`)「なんだいルアハ」
*( ゚□゚)「あなたへの呼称を、”お義父さん”に変更してもよろしいでしょうか?」
(;´_ゝ`)「???」

45 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/27(木) 10:18 ID:???
これは傑作!
と思って貼りに来たら、既に誰かが転載してた罠。そうだよなぁ。

46 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/28(金) 00:47 ID:???
634 :名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 11:58:06 ID:Blc+64n5O

「神砂嵐」

生身の体では避けきれまい。
鋭い反射神経を備えた〈〈波紋〉〉使いや、神経改造を施したナチスのサイボーグでさえも。
避けたとしても、歯車的小宇宙は周囲の空間ごと破砕する。

以下遅い喚くな

636 :名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 13:45:46 ID:bDpY/jvD0
そういえば、板の嵐は治まりを見せているな。

・・・・・・パンダが倒されたのか?

637 :名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 13:51:02 ID:bDpY/jvD0


  ヽ、_丿         / ⌒ヽ        ノこ__,
 `ニ<  ミ-ヽ、     (( ハ  )      __イ  >z
  `´彡ミ-L ` ̄`ー(′  l )ハーー´  彡ミミ
       \ヽ 、 /( 冫 人  )ヽ、 ´ノノ´
         \、/((  (  ハ) )〉 ン/
          //  `丶ー  ノ \く
        // |        \ \

        『風の流法・・・…神砂嵐!!』


アンタが倒したのかよw 大公爵SUGEEEEEE!!!

47 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/28(金) 19:13 ID:???
もうJOJOスレになりそうな勢いでもあるな
ネタにしやすいのは確かだが
前にもこんなのあった

627 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/27(木) 05:50:31 ID:DW0WgsZO0
「フフフフフ。名前がほしいな。『41の奇械の1つ』じゃあ今いち呼びにくいッ!
このケルカンが名づけ親(ゴッドファーザー)になってやるッ!
そうだな…『安らかなる死の吐息!』という意味の『クセルクセス』というのはどうかな!」

48 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/28(金) 23:02 ID:???
俺は大公爵というコピーに引かれ
大公爵になるためにはどうすればよいのか考えた
大公爵なのだからどんなこともできる
手始めに全裸でペトロヴナの部屋にザハーク、ザハークとつぶやきながら飛び込む
タンスをこじ開けブラジャーを腰に巻きパンティーを頭にかぶる
ペトロヴナが呆然としながら見てくるが大公爵なので気にしない
ペトロヴナのベッドに潜りこみ「喝采せよ!喝采せよ!」と絶叫
ペトロヴナは無言で部屋から立ち去る
だがまだ大公爵には不十分
次はクロック・クラック・クロームの部屋にポルシオンポルシオンと叫びながら飛び込む
クロックは着がえをしている最中だったが大公爵なので無視
半裸で逆立ちをしながら
「現在時刻を記録せよ!現在時刻を記録せよ!」と絶叫
クロックは大泣きで退散
確実に大公爵に近づく
開脚後転でトイレに飛び込み便座を外し首に掛ける
ゾンビの真似をしながらレムル・レムルの部屋に突撃
タンスを開けると一枚の写真発見
死んだ娘を俺が抱いている写真発見
俺は泣いた

49 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2007/12/31(月) 23:17 ID:???
690 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/28(金) 13:51:58 ID:nyJOXlvA0
インガノックはアニマルパラダイス!

691 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/28(金) 14:59:11 ID:oMj94fSW0
大公爵のフルネームはムツゴロウ・アステア

692 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/28(金) 15:23:43 ID:Ca3/tne/0
やめてどうぶつの王やめてwww
双子情報屋ピンチwww

693 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/28(金) 15:28:08 ID:6atR9BO+0


  ヽ、_丿         / ⌒ヽ        ノこ__,
 `ニ<  ミ-ヽ、     (( ハ  )      __イ  >z
  `´彡ミ-L ` ̄`ー(′  l )ハーー´  彡ミミ
       \ヽ 、 /( 冫 人  )ヽ、 ´ノノ´
         \、/((  (  ハ) )〉 ン/
          //  `丶ー  ノ \く
        // |        \ \

 『お〜、よしよし。可愛いですねぇ。耳がピクピクしてますねぇ』

50 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/01/01(火) 10:17 ID:???
  l^ヽ..                       ,-,
 .ヽ ;、` ー 、_                  /,|
  ヽ    ,ヽ ー- 、            /  |
   \7    __  `‐-- 、___    _ノ  `|
     \ ; ヽ>      ,  ̄ ̄   ・ ;|     (セル)
      .ヽ__    __ ”,  .  /^ヽ  ,々|     同じ医者として言わせて貰うと、ギーには何か足りない。
       ヽゝ └'′  __     |::::;;;::|  ,;;|     治す為なら妹でもヤる。それが医者ってモンだろう?
        ヽ ;; ‘’ ヽ,>   {:::::;;;::|   ,,|
        /ヽ、       ・ ヽ::::;;;:| ;; |
        { ニ.ゝ : /7      ヽ::::/  ;;|
        | __,..l、,,,,_ ~ ,‘’ ,;; ∨;:  ;|
       .l __,,..| {「;「`‐-、..._____  |  __ヽ
       .{‐' __..| {|;;| :.ヾヽ..l__,ゝ_|_,.イ__「
        ヽ/ ,`-,-,< ;.`=≡=´/'=下
          ヽ/ ,,/   l、ヽ, , ̄〃= 7′
          'ー/ ,;; |; }} ,: 丿二フ
          _,./   1l` -、_ < ー/
 __,-‐rー―-rl´ i’ ,,;;; | |:::::::::~lT′
        l {_ ,;;i     | |:::::::::;;l|  ̄ ^ヽr、,_,.-r-、_
          `ー---、 l,.ゝ:::::/__,.--一'_ノ ;; ヽ ヽ
               ̄ ̄`l        ’ ,;;| }

51 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/01/01(火) 10:33 ID:???
ちょwwwwセルwwwww

52 名前:世界名作シリーズ 投稿日:2008/01/02(水) 10:29 ID:???

「炉キーア」

 炉、キー、ア。わが生命のともしび、わが肉のほむら――

 暇と資産に恵まれ、類まれな魅力をも備えた下層の上級市民ハンバート・ハンバートは、
巡回医の助手を務める少女の陽光のような笑みに人目で心を奪われるが、
エロシーンがないことに絶望し、道化師の導きのままにやがて狂死へと至る。
 西享の作家ナボコフの手による、中年男の倒錯した心理を描いた問題作。

53 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/01/02(水) 12:03 ID:???
            __,,,,_
            /´      ̄`ヽ,
            / 〃  _,ァ---‐一ヘヽ
         i  /´       リ}
          |   〉.   -‐   '''ー {!
          |   |   ‐ー  くー |
           ヤヽリ ´゚  ,r "_,,>、 ゚'}
         ヽ_」     ト‐=‐ァ' !
          ゝ i、   ` `二´' 丿
              r|、` '' ー--‐f´
         _/ | \    /|\_
       / ̄/  | /`又´\|  |  ̄\


のちのサイバー大王である。

54 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/01/04(金) 19:00 ID:???
>>53
正月にそのネタはまずいだろうw

55 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/01/04(金) 22:34 ID:???
誰かと思ったらあの方かww

……アマノのネタは時々(?)やばすぎるのがあるよなぁ。

56 名前:世界名作シリーズ・その2 投稿日:2008/01/06(日) 01:11 ID:???

『変身』

 ある朝、気がかりな夢から目をさますと、自分が一匹の巨大な《虫蟲》に
変異しているのを発見する下層民グレゴール・ザムザ。なぜ、こんな異常な事態に
なってしまったのか……。《復活》の謎は究明されぬまま、ザムザの運命は激変する。
 都市法改正以前に頻発した、幻想人種《虫蟲》への偏見と迫害。今もなお禍根を残す
都市の暗部について、社会派ライターである著者が迫る渾身のドキュメンタリー!

57 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/01/07(月) 20:23 ID:???
大公爵の場合
「喝采せよ! 喝采せよ!」

ペトロヴナの場合
「祝福せよ! 祝福せよ!」

ギーの場合
「巡回せよ! 巡回せよ!」

ケルカンの場合
「殺戮せよ! 殺戮せよ!」

ドロシー・ウッドストックの場合
「演奏せよ! 演奏せよ!」

ミース・ギャラハーの場合
「おっぱい! おっぱい!」

58 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/01/07(月) 23:28 ID:???
  _   ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
 ⊂彡

59 名前:別に四人だけじゃないけど 投稿日:2008/01/13(日) 20:24 ID:???
――《嘘屋ライター》とは。

嘘屋のシナリオを書きながら、
そのタッチは違いすぎる者たち。

嘘屋信者ではなく、
嘘屋信者であったかもしれない者たち。

このメーカーの異形を保つ根源によって、
彼らの”シナリオ”は保たれている。

嘘屋には、4人の《ライター》が在る。
いいや、在ったと言うべきか。

ひとりはめてお。
信者を獲得しながらも遅筆のために狂ったライター。

ひとりは桜井。
遊演体の権能のすべてを継いだ、女の子(?)。
既知世界等の《世界観》を操り、信者を獲得する。

ひとりは天野。
歴史ネタとバカシナリオとを揃えた唯一のロリコン。

そして、もうひとりは…。

60 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/01/14(月) 01:37 ID:???
よくも考え付いたなww

61 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/01/15(火) 17:54 ID:???
めておもロリコンだから唯一ではねーよw

62 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/01/22(火) 18:37 ID:???
よし、宣伝だ。

以前紹介されていたつれづれなサイトに、ケルカン&ルアハのSSが公開されてるな。
インガノック解放後のストーリーらしいが、短いながらも胸に来るものがあったよ。

63 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/02/08(金) 16:25 ID:???
>対戦闘宝貝戦

         ─┬=====┬─┬─┬
           ヽ┴-----┴ 、/_ /
         ==||:|: 乃 :|: 「r-┴──o
   ____________ |:|:__ :|: ||--┬┘
   |ミ///ロ-D/   ~~|ミ|丘百~((==___
 . └┼-┴─┴───┴──┐~~'''''-ゝ-┤
   ((◎)~~~O~~~~~O~~(◎))三)──)三)
    ゝ(◎)(◎∩◎)(◎)(∩)ノ三ノ──ノ三ノ
         //      | |          ミ
        //Λ_Λ  | |
        | |( ´Д`)// <直接チハぶつけるんだ
        \ よしこ |    
          |     lヽ,,lヽ ミ
          |    (    ) やめて
          |    と、  ゙i  装甲へこんじゃう


64 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/02/08(金) 16:27 ID:???
110 :名無したちの午後:2008/02/07(木) 12:54:42 ID:+svwVpF/O
仕方ない、それなら天野に頑張ってもらって
渾沌の新妻だいありーを作らせるしかあるまい

111 :名無したちの午後:2008/02/07(木) 12:58:31 ID:lA2bKSLj0
今日、路地裏の暗がりで後ろから第三の目を開眼したままさもんじに這い寄ってみた

にげられた

112 :名無したちの午後:2008/02/07(木) 13:12:17 ID:FEoIgMiP0
新妻ならぬストーカーダイアリーになってんぞ

113 :名無したちの午後:2008/02/07(木) 13:36:14 ID:xRsYcy+pO
嘘屋的にはありというかむしろそれで出せw

L&Dのヒロインがそんな感じだな

114 :名無したちの午後:2008/02/07(木) 13:54:18 ID:8YzvIBZZ0
それなら予約して買う

65 名前:独孤求幼 投稿日:2008/02/10(日) 10:49 ID:???
気に入った。家に来て俺様似の妹をファックしていいぞ。

66 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/02/14(木) 02:50 ID:???
カモちゃんさん
  「こ れ が ア メ リ カ だ !!
   アメリカの広大な大地で育まれた
   アメリカンバスト…
   日本にはございますまい!!」


沖田「……」
 原田「やめろーはなせー」(ジタバタ
              斉藤「……」


カモちゃんさん
  「 経 済 大 国 日 本 !!」

67 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 21:51 ID:???
         サフィズムの幻想 初夏の特別シナリオ
      『フィーネ・プリマヴェーラ さよならイゾルデ!』



                 上編




「―――ねえ、知ってる? ニコルが、天京院センパイの部屋を不法占拠したんだって」
 
 学園生活最後の日にもたらされるニュースとして、それは不適切のように思われた。
 だが、イゾルデは特に不快を表情には出さなかった。僅かに目を細めた程度だ。
 彼女にとって秩序は何より重んずべきもので、例え今日が最後になろうと、三年間保た
れ続けた調和――オープンカフェでの朝食――を崩すつもりは微塵もない。
「ねえ……聞いてる?」
 情報のは運び手は、イゾルデの傍らに立ったまま不安げに声を投げる。
「なぜだ」短く問うた。
「……え? なぜって」
「どうして―――」
 少女は慌てて用意した言葉を引き出した。
「そ、卒業させたくないんだって。学園に残って欲しいんだって。バっカだよね。サード
になったら、あとは卒業するしかないのに。そんなの当たり前の話なのに。寂しいから、
卒業しないでくれって、そんなの子供のやることだよ」
「違う」
 カプチーノ・カップをソーサーに戻すと、橙色の瞳で睨め付けた。柔らかそうな金髪が、
イゾルデの放つ圧力にぶるりと震える。
「ルネ・ロスチャイルド。私が尋ねているのは、なぜお前がここに来たのかということだ」

68 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 21:52 ID:???

 購買部通りのオープンカフェで、早めの朝食をとるのがイゾルデ・メディチの日課だ。
 開店と同時に足を運び、焼き立てのクロワッサンとカプチーノをゆっくりと楽しむ。
 これこそ伝統的なコンチネンタルスタイル―――イタリア人としての矜持を満たす、
簡素ながらも風情ある朝食風景だ。朝からゆで卵やトースト、シリアルを口に放り込む
ような奴はイタリア人ではない。イゾルデはそう信じていた。
 三年間続けられた習慣―――『あの日』から苛まれ続けた悪夢が失せ、安眠を取り戻そ
うと、狂うことはない。ついにイゾルデは、一分も遅れることなく最後の日まで、午前
六時きっかりに朝食を取り続けた。
 ルネをイレギュラーと認めたのは、彼女が編入してから四ヶ月、一度だってイゾルデと
朝食をともにしたことなど無かったからだ。授業開始時刻ぎりぎりにカフェに駆け込んで
くる少女が、なぜ今日に限って二番目の客になっているのか。夜更けまでテレビゲームに
遊び呆けているような生活サイクルの少女が起きられる時間ではないし、今日は授業も
無いのだから、起きる必要すらない。
「……いちゃ、駄目だった?」
 恐る恐るルネは問い返す。
「そうは言っていない。理由が知りたいだけだ」
「だって、今日で……」
 イズーとお別れだから。ぼそりと呟いた。
「最後ぐらい一緒に朝ご飯を食べたかったんだ」
「私は拒んだつもりはない。ただお前が起きられなかっただけだ」
「そ、そうだけど! ……だから、昨日は早く寝たんだよ」
 イゾルデは、テーブルを挟んで向かいの席を指差した。ルネの顔がぱっと晴れ渡る。
「いひひっ」と笑うと、カフェチェアーに飛び乗った。
 給仕に「イズーと同じの!」と満面の笑みで注文すると、イゾルデに向き直って、
「なにを食べているの?」と質問する。

69 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 21:53 ID:???

「見ての通りだ」
「パンとコーヒーだけ?」
「それが正しい朝食だ」
 えー、とルネは口を尖らせる。
「クロワッサンはオーストリア生まれだろう」
「あたし、オーストリア人じゃないよ」
 案の定、運ばれてきたカプチーノは彼女には苦すぎたし、クロワッサンはバターすら
添えられていなかった。なんと味気ない朝食だろうか。ルネはチーズやヨーグルトを追加
注文しようか迷ったが、今日はイゾルデに最後まで付き合うんだと決意したことを思い
出し、我慢することにした。
 イゾルデは特にルネに注意を払うこともなく、いつものようにゆっくりと朝の時間を
満喫した。もう五月も終わるというのに、潮を孕んだ風は相変わらず冷たい。
 冷気は緊張を促す。実に心地よい風だった。門出の朝に相応しい。
 さっさとクロワッサンを片付けてしまったルネは、エスプレッソと呼んでも差し支えが
ないほど微量のスチームミルクが加えられただけのカプチーノに挑戦している。
 ついばむように口に含んでは「うへえ」と表情に苦味を走らせる。
「……驚かないんだね」
「何がだ」
「ニコルのこと。立て籠もりのこと。すっごくバカなこと!」
「ああ……」
 その話ならイゾルデはとっくに知っていた。先日まで寮管理委員に所属し、右舷上層寮
(つまりはサードクラス宿舎)の寮長を務めていたのだ。知らないはずがなかった。セカ
ンドクラスのヘレナ・ブルリューカを召喚し、大体の事情も聞いている。前代未聞の事件
だが「生徒間個人の問題」ということで今は落ち着きを見せている。無事寮長を引退した
イゾルデが首を突っ込むほどの大事件ではない。

70 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 21:54 ID:???

「アンリエットの奴が主犯だったか? あいつのことだ。どうせ、天京院が卒業する前に
何かをやらかすと思っていた。この程度なら可愛いものだ。好きにやらせておけばいい」
「そーいうもんなのー?」
 むしろルネがむくれている事実の方がイゾルデは理解できなかった。
 ふと思い至る。そう言えば、立て籠もりはアンリエットやニコルの他にも、若干名の
生徒が加担している。かつて、勇ましくも自分に挑戦してきたハミルトンもリストアップ
されていた。まさかルネは気にしているのだろうか。仲間外れにされたことを。
 ……彼女が天京院の卒業を引き留める理由などないはずだが。
「ね! イズーってばさ!」
 一転して、ルネの声が明るくなる。
「迎えの小型艇は午前最後の便だったよね? だったらそれまで一緒に遊ぼうよ」
「無理だ」きっぱりと拒絶した。「挨拶が残っている」
「えー、昨日も一昨日もさんざん回っていたじゃない。パーティにも出ずっぱりでさー」
「この学園の卒業とはそう言うものだ。社交の場として利用した以上、利用されることも
また覚悟しなくてはならない。私はこの船を去るが、人の付き合いは次のステージに持ち
越されるだけだ。アンリエット達のように、大袈裟に喚き立てる方がどうかしている」
 イゾルデの説得をルネが理解するはずもなく、彼女は不平をこぼし続ける。「だったら
お前も付き合え」と言えば「そんなの余計に退屈だもん!」と拒まれた。
 ルネがイゾルデに寄せる信頼と依存――― 一瞬だけ、メディチの女の胸を騒がせた。
 これから先、この少女は一人で学園生活を過ごしてゆけるのだろうか。イゾルデ無し
で、満足に青春の日々を送ることができるのだろうか。―――そうできるよう教育はして
きた。だが確信は持てなかった。それほど自分に寄せるルネの信頼は強い。
 イゾルデは席を立ち上がると、懸念を振り払った。自分が悩んだところでどうなる問題
でもない。一人で生きてゆけるかどうか、ではない。生きてゆかなくてはならないのだ。
 無情に聞こえるかもしれないが、ルネ自身が選んだ道なのだから仕方ない。

71 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 21:55 ID:???

「私はもう行くぞ」
 三年間世話になった給仕の、別れを惜しむ言葉を聞き届けたイゾルデは、手袋をはめる
と席を立った。ルネが頭を上げる。背中に向けて叫んだ。
「見送りには行かせてよ!」
「十一時に学園正門、エントランスだ。遅れても待たんぞ」
「エイ・オーケイ!」
 ルネは力いっぱい頷く。
 イゾルデはさっさと足を進めた。直後にルネが呟いた言葉を、努めて聞かないように。
「……ニコルはバカだよ。イズーがいなくなっちゃうのに、何やってんのさ」



             * * * *
            


 ルネにはああ言ったが、迎えの便がくるまで特に予定というものは無かった。挨拶も
格式張った相手には既に済ませている。あとは馴染みの数人と言葉を交わす程度で、それ
も大した時間は取られまい。船から去る日になってようやく一息が吐けるとは。ここ一ヶ
月間――特に式典から今日までの数日間――の慌ただしさから、ようやく解放されたイゾ
ルデは、一人になることを望んでいた。ルネには悪いが、自分はあまりに孤独に馴れすぎ
てしまった。自分を保つためには、独りになるしかない者もいるのだ。
 厳格と怜悧で知られるイゾルデ・メディチだが、顔の広さと社交性の良さに関しては
船内でも飛び抜けている。教師連中からの信頼も厚く、他を圧倒する家柄の良さのため
サードクラス――否、全生徒の――代表格として、今日までH.B.Pに君臨してきた。必然、
人の付き合いも他の生徒より求められた。昨日まで連日のように夜会が続き、昼は後任の
委員会への引き継ぎに忙殺された。下船後も付き合いを続けたいと強く望む者は、生徒
教師問わず多くいた。そして、イゾルデはそういったことに煩わしさを感じない性質で
あったため、余計に多くの人が彼女との面会を求めた。
 人の繋がりは――特に、H.B.Pなどという世界規模で活躍する者が集まる場では――
十年後、二十年後、必ずメディチの血肉となる。そもそも自分がこの学園に入学したのは、
勉学のためでも青春を満喫するためでもない。やがて世界に轟かすことになるであろう
メディチの威光を、事前に浸透させておく……所謂下準備のためなのだ。時間を惜しんで
人の付き合いを疎かにするような真似は、愚の骨頂であった。
 下船したところでイゾルデ・メディチという個人に終わりはないのだ。彼女にとって
卒業は役所の転属異動と何ら変わりない。人の付き合いは途切れない。メディチの名は
永遠に付きまとう。ただ環境が変わるだけだ。そこには冒険も挑戦も介在する余地はなか
った。自分がメディチであることを受け入れた時から今日まで、全ては予定通りに進んで
いる。―――だが、疲れは誤魔化せない。休息は必要だ。今日という空白をイゾルデは
十二分に活かすつもりでいた。

72 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 21:56 ID:???

 朝食を終えた彼女は、まず私室に戻った。下船まで部屋に帰るつもりは無かったから、
不備はないか最後の確認が必要だ。イゾルデはまだフィレンツェに戻る気はない。家具や
調度品は彼女が入学してから揃えたものだから、全て処分する。彼女を慕う後輩たちが
引き取りを強く希望したので粗大ゴミにはならずに済んだ。船から持ち出すのは衣類と
必要最低限の書物ぐらいか。他の生徒に比べると、イゾルデは格段に私物が少なかった。
 つと、ライティングビュローに注意を向ける。木目が麗しいテーブルに、フォトフレーム
が伏せられていた。写真などの小物は全て一つにまとめて送らせたはずだが。訝しみながら
写真立てを表に返す。視界に飛び込んできた情景に、思わず「ああ」と頷いた。
 それは入学の折、感傷のために持ち込んだ写真でだった。そして憎悪と哀愁のあまり、
自分には不要のものだと決め付けた過去でもあった。とっくに処分したとばかり思っていた
が、部屋の奥に眠っていたらしい。自分が朝食を取っている間に、掃除に入ったメイドが
発見したのだろうか。
 イゾルデはフォトフレームから写真を抜き出すと、制服の内ポケットにしまった。
 他に私物はないか確認して部屋を後にする。二年半の不眠に根気よく付き合ってくれた
我が仮宿―――特に後ろ髪を引き摺られることもなく、事務的に扉を閉じた。

 学園長が自分のために時間を空けてくれたとジョアンナ女史から聞かされたため――
しかし、女史はそう言っておきながら三十分もイゾルデを引き留めた――予定を変えて、
学園長室へと向かった。相変わらず操舵輪を握ったままだったが「あんたほど面白味の
ある面白くない女は初めてだったよ」と有り難い(?)言葉をくださったので、いね満足
ではあった。
「あんたが入学した頃からね、あたしゃあんたを潰してやろうって決めていたんだ。だっ
てそうだろう? 理事連中も教師陣もPSもみんなあんたに惚れ込んでいるんだもーん。
ぜんっぜん面白くないから、あたしが潰して盛り上げてあげようかなーって」
「そうでしたか」
「そうそう。まぁ結局、鼻っ面の一つもへし折れずに今日を迎えちゃったんだけどね」
 反応に困る告白だった。イゾルデの記憶をいくら探っても、学園長と深く付き合いを
持ったことなどない。プライベートな会話をするのだって今日が初めてだった。
 挑戦はつねに正面から受けて立つのがイゾルデの流儀だ。学園長の策謀に気付いていれ
ば、もう少し面白い学園生活が送れたのかもしれないが……。
「こっちゃバレないようにしていたんだよ! だって怖いもん!」
「そうでしたか」
「ファーストクラスのジラルドの一件だってそうだ。巧妙に隠しやがって。あたしが気付
いた時には全部終わっていたよ。あたしにも手稿見せろ!」
「そうでしたか」
「そうでしたっつーの! あたしを負け犬を蔑む目で見るなー!」
 学園長は愛刀の和泉守を持ち出して決闘まで申し込んだが、駆け込んだPSや指導部に
静止されてお流れになった。イゾルデが退出時に聞いた学園長の言葉は「なんであたしが
怒られなくちゃいけない?!」だった。学園長らしい別れ方だと思う。
 鉄面皮の裏で、イゾルデは苦笑を隠すのに腐心した。

73 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 21:57 ID:???

 ギャレーのシェフや、イゾルデの担当だったメイド達とも別れの挨拶を交わした。
 三年間イゾルデに仕えてきた労働者たちは「向上の機会が減ってしまいます」と言って、
悲しんだ。芸術に深い理解を示す彼女の舌を満足させることがシェフの誇りであり、不眠
に悩まされる彼女の生活から不快を可能な限り取り払うのがメイドの矜持だったからだ。
 イゾルデから「ペルフェット!」や「ご苦労」と労いの言葉をかけられるのは、彼女
たちにとって無上の喜びだった。

 ペネローペとの別れは淡泊なものだった。彼女はメディチ家お抱えの料理人であり、
イゾルデはこの有能な(そして変わり者でもある)シェフを手放す気は無かったからだ。
まだ暫くは船に残りたいと希望したたため一時の別れとはなるが、それだけのことに過ぎ
ない。優秀な人材は悉くメディチの庇護を受けるべきなのだから、イゾルデとペネローペ
の関係はまだまだ続く。
 ペネは自分の店で最後の昼食を取ることを強く薦めたが、ランチ艇で移動する間、胃袋
には何も入れたくなかったから辞退した。どうせ彼女が悪戯を仕込んでくるのは分かって
いたし、それにあえて乗ってやるほど情は厚くない。
 ルネの偏食に関して一つ二つ言伝を残して別れた。
 
 右舷から購買部通りを経由して空中庭園まで歩いた。最近はめっきり遠ざかってしまった
が散歩は嫌いではない。インソムニアに悩まされていた頃は、気を紛らわすためによく校内
を徘徊したものだ。目的もなく歩を重ねるのは贅沢な楽しみであった。
 全面ガラス張りのドーム状建築物―――熱帯植物園を抜けて「海が見える丘」で立ち
止まる。途中、見知った生徒や教師とすれ違うと短く別れの挨拶を交わした。
 こうして高所から水平線を一望しても、センチメンタルな想いに浸る気配はない。今日
で去りし学園の日々も、明日から訪れる新たな環境も、イゾルデの中では同じ日常に過ぎ
なかった。彼女ほど淡泊ではないにしても、他の卒業生だって似たような意識のはずだ。
H.B.Pは社交界の縮小版と呼ぶべきもの。過程に過ぎぬこの学園に独立した意義を見出す
のは難しい。「学園の日々よ!」と高らかに唄うには、あまりに利害が、家柄が、多くの
財界人の意図が、絡みすぎていた。―――そして、イゾルデはそれ等を可能な限り利用
した。イゾルデに取ってこの学園は、あまりに、あまりに情動とは無縁の場所だ。
 自分に悲しみを覚える権利はない。

74 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 21:58 ID:???

 アイーシャ・スカーレット・ヤンの姿を認めたのは、中庭に降りるため植物園に戻った
ときだ。彼女が管理しているのであろう、熱帯系の樹林に水をまいていた。
 ホースから噴き出す水に、射し込んだ陽光が煌めく。園内は湿気が高く、立っている
だけで汗が滲み出た。表情にこそ出さないものの――冬将軍に蹂躙されようと、イゾルデ
の顔はぴくりとも動くまい――フィレンツェの乾燥した夏期で育った彼女にとって、じく
じくと身体を攻め立てる湿潤の高い熱気は天敵だった。不快感がこみ上げる。
 だが、アイーシャを眺めていると苛立たしい熱気も意識の彼方に消え去った。褐色の肌
が鋭い黒髪とよく似合うクラスメイトは、植物園内における清涼剤だった。熱帯植物だけ
はなく、それを見るイゾルデにまでオアシスの潤いを与えててくれる。赤道直下の国で
育ったにも関わらず、太陽よりも月を彷彿とさせる女―――憂いを秘めた表情と、陶器の
如く繊細そうな細身の長身が、熱気とは対極の位置にある何かを放射させていた。
 彼女も同じサードクラスなのだから、今日か明日にでも船を降りるはずだ。だとしたら、
植物たちへ送る最後の手向けとして水をやっているのか。邪魔をするのは忍びない。
 ようやくアイーシャは眺望者の存在に気付いたが、イゾルデはとくに挨拶を交わそう
ともせず、踵を返した。そう言えばアンリエットが囲っている女の一人だったな、などと
考えつつ温室を去ろうとする。背中から声が掛かったのはその時だ。
「あの、メディチさん」
 呼び止められたことを意外に感じつつ振り返る。クラスメイトではあるが面識は僅かだ。
イゾルデの記憶に残る限り言葉を交わしたことはない。社交の場に顔も見せない孤高の女
だった。別れを惜しむ間柄でも無いはずだが。
「何か?」
「その……船にはいつお降りになるのでしょうか」
 アイーシャは蛇口を締めて、放水を止めた。
「午前最後の便だ」
「そうですか……」
 サードクラスと言えど年齢はルネと同じなのだが、そうとは思えぬ大人びた風貌に、
物憂げな瞳。身長はイゾルデにこそ及ばぬものが、あのアンリエットより長身に見える。
熱帯系の植物に囲まれている姿を見ると、オリエンタリズムの神秘を否が応でも意識させ
られた。白色人種には出せぬ魅力を秘めている。

75 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 22:00 ID:???

「もし……差し障りがないようでしたら、お茶に誘ってもよろしいでしょうか」
 イゾルデが無意識に放つプレッシャーに萎縮しながらも、アイーシャは最後まで言葉を
紡いだ。メディチの顔が怪訝に歪む。クラスメイトの意図が読めなかった。
「まずは誘いに対して感謝を示させて頂く。だが理解しかねる提案だ。アイーシャ・スカ
ーレット・ヤン、てっきりお前は私との――いや、私に限らず他の生徒とも――付き合い
を望んでいないと思っていたのだがな。別にそれを批難するつもりはないが、今日に至っ
てどういう心変わりだ」
 イゾルデのはっきりとした物言いにアイーシャは驚きの表情を見せたが、すぐに口元を
綻ばせた。「最近はそうでもないんですよ」と言って微笑む。
「メディチさんの言う通り、私はずっとクラスメイトとの交わりを拒んでいました。でも、
今はそうした態度を取っていたことを後悔しています。だから……その、私が、あなたを
お茶に誘うのは……そこまで不思議なことじゃないと思うの」
 それもアンリエットのお陰か―――喉まで出かかった言葉を飲み下した。アイーシャ
なりに勇気を振り絞って話しかけたのだろう。同学年と言っても、年齢は二つ下なのだ。
ファーストで臆することなくイゾルデに話しかけられる人物など、ルネを除けば二人しか
知らない。アイーシャの決心は評価すべきだった。
 グリモルディの腕時計で時刻を確認する。ルネとの待ち合わせの時間まで、まだ余裕が
ある。クラスメイトと親交を深めることも決して無駄ではない。馴れ合いは厭うが、実務
以外の人付き合いを頭ごなしに拒むほどイゾルデは無粋ではなかった。
「良いだろう。だが店はお前が選べ」
「カリヨン広場のカフェーなんて、どうでしょう」
 有志のメイド達によって経営されているオープンカフェだ。味は悪くない。立地の良さ
とフランクな雰囲気が相成って連日繁盛している。学生たちの人気店だ。だが、その雑多
な雰囲気が、物静かなアイーシャや厳粛な空気を好む自分にはそぐわない気がした。
 そんなイゾルデの考えに気付いたのか、アイーシャは慌てて補足する。
「実は人を待たせているんです」
「ほう?」
「ええ。よろしければ、メディチさんもご一緒にと思って」
 まさかアンリエットということはあるまい。彼女は現在、立て籠もりの真っ最中だ。
優雅にお茶を愉しめる身分ではなかった。だが、他にこの褐色の少女と付き合いがある
生徒など思い付かない。
「あの……何か、問題があるかしら?」
「いや、そういうことならカリヨンのカフェーで構わない。だが、名前だけは聞いておき
たい。誰がお前を待っているんだ」
 アイーシャは笑みを作った。それは強い陽射しのような笑みだった。だからこそ、彼女
の中に潜む闇がはっきりと感じられた。
「―――天京院鼎さんです」

76 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 22:02 ID:???



             * * * *
            


「無様だな、天京院」
 意外なゲストを迎えて驚くクラスメイトに向けて放った第一声。カフェーで不機嫌そう
にコーヒーを啜っていた天京院鼎は、目を剥くことで応えた。
「何を―――」
「私はお前を少し買い被っていたようだ。確かに、お前は品行方正とは言い難い。問題児
だと断言してやろう。だからこの程度の事件、さして驚くに値はしないかもしれない。
お前の研究とやらのお陰で船が被った今までの損害に比べれば、あまりに規模は小さい」
 イゾルデは天京院の傍らに立ったまま「だが」と付け加えた。
「今までお前は、自分の失態は自分で鎮火してきた。他人に被害を及ぼすことは決して無
かった。研究の狂気と人徳者としての分別が天秤の上で釣り合っていたのだ。私はこれを
評価していた。―――昨日まではな」
 顔を合わすなり放たれたイゾルデの鋭い口舌。天京院は説明を求めるように、アイーシ
ャに視線を送った。だが、彼女もまさかこんな事態になるとは思わなかったのか、為す術
もなく立ち竦んでいる。
「今回の事件にはつくづく失望させられたよ。お前はどう受け止めているか知らんが、
あれは歴とした右舷上層寮の規律への挑戦だ。寮管理委員会を虚仮にしている。お前が
その明晰な頭脳でどう足掻いても、もはや委員の顔に塗りたくられた泥は拭えない」
「あれは杏里たちが勝手にやったことだ。私だって困っている!」
 天京院はカフェテーブルを荒々しく叩いた。その音に驚いた周囲の生徒が好奇の視線
を送ってくるが、イゾルデの存在に気付いて慌てて逸らした。

77 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 22:03 ID:???

 メディチの女は鼻を鳴らしてせせら笑う。
「だが、火種はお前だった。被害を拡大させる燃料となったのもお前だ」
「……来るなり説教か。立派なご意見だということは認めるよ」
 天京院も疲れているのだろう。いつも以上に余裕を感じられない。苛立ちをイゾルデに
ぶつけても無駄だと覚ったのか、矛先をアイーシャに変える。
「これはどういうことだ。なぜ彼女がここにいる。私は君と待ち合わせをしていたはずだ」
「あの……」
 アイーシャの表情はいまや蒼白だった。馴れないことはするものじゃない―――後悔の
色が表情にありありと浮かんでいる。
「私、メディチさんがそのことで怒っているなんて、知らなくて……」
 天京院は頭を振った。「もういい」と手で制する。
「イゾルデ・メディチ。君が右舷上層寮の寮長だったことは知っている。だが、これは君
には関わりがない話だ。生徒間個人の問題で、そのことは学園長も認めている」
「ヘレナ・ブルリューカの懇願のお陰だな。お前の力ではない」
「……やけに絡むじゃないか」
 張り詰めた緊張に沈黙がかけ合わされ、今にも火花が散りそうな一触即発の空気が展開
する。教師ですら逆らえないと言われるサードクラスの威厳と畏怖の代名詞―――イゾルデ
・メディチと学園内切っての問題児、天京院鼎。異色の組み合わせが、声を荒げて睨み合っ
ているのだ。そのプレッシャーは半端な好奇心を駆逐し、周囲の生徒をこそこそと退散さ
せた。下手に関われば飛び火だけで全身火傷する。
 と、その時。
「―――メディチ様、この件は天京院様も深く悩まれています。寮管理委員会に所属して
いたものとして面子に拘るお気持ちは理解できますが、どうかこの場は天京院様のお顔を
立てては頂けないでしょうか」
 手を伸ばせば途端に弾かれそうなほど濃厚な緊張の坩堝に、まるで臆することなく踏み
入るメイドの姿―――イゾルデは「ほう」と短く感嘆の吐息を漏らした。

78 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 22:04 ID:???

「……イライザ・ランカスターか。そう言えばこの店はお前が仕切っていたな」
「メイド達の有志によって営業させて頂いておりますわ」
 取りあえず、お座りになったらいかがでしょうか。ランカスターに勧められるがままに、
イゾルデはカフェチェアーに腰を下ろした。先の発言―――使用人の分際を弁えぬ出過ぎ
た言葉ではあったが、タイミングは完璧だった。
「ブルリューカにしろランカスターにしろ……良い友人を持つということは、それだけで
強力な武器になる。せいぜい厚い友情に感謝するのだな、天京院」
 イゾルデの挑発。反応するだけでも苛立たしいのか、天京院はそっぽを向いたまま答え
ようともしなかった。
 ランカスターは一礼すると、滑らかな所作でテーブルの上にトロフィー型のワインクー
ラーを置いた。満載されたロックアイスの隙間から、ワインボトルがそそり立っている。
「……アルコールを注文したのか?」
 アイーシャに問いかけた。彼女は首を振って否定する。
 ランカスターが人数分のワイングラスを並べると、営業スマイルにしてはあまりに魅力
に溢れる笑みを作った。
「こちらは当店からのサービスでございます。アイーシャ様、天京院様、メディチ様――
―ご卒業、おめでとうございます。私たちメイドからのせめてもの心づくし。どうぞ遠慮
無く飲み干してくださいませ」
「げ」と天京院の口から呻きが漏れた。アイーシャも苦笑いを隠せない。イゾルデだけが
口端を吊り上げて、ふっと鼻で嗤った。

79 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 22:05 ID:???

「―――『友よ、古き昔のために、親愛のこの一杯を飲み干そうではないか』」
 ランカスターは聞き慣れたメロディを口ずさんだ。「あら」とアイーシャは口に手を
当てる。天京院も眉を寄せた。理学一辺倒の彼女ですら耳に馴染みのある旋律。
「『我ら二人は丘を駈け、可憐な雛菊を折ったものだ。だが古き昔より時は去り、我らは
よろめくばかりの距離を隔て彷徨っていた』―――」
 イゾルデが歌詞を引き継いだ。
「『いまここに、我らは手をとる。いま我らは、良き友情の杯を飲み干すのだ。古き昔の
ために』―――なるほど、卒業に酒杯は欠かせぬというわけか」
「天京院様も、この曲ならきっと耳にしたことがございますわ」
「ああ、デパートに閉店まで粘っていれば嫌でも聞けるよ」天京院はテーブルに頬杖を
ついたまま言った。「歌詞はだいぶ違うがね。『オールド・ラング・サイン』だったか。 
日本では『蛍の光』の名で親しまれている」
「世界で一番、愛されている歌ね」
 アイーシャの声音は浮き立っている。雰囲気が和らいだことがよっぽど嬉しいのだ。
「杏里ですら知っている。学園でこの曲を知らない奴はいないんじゃないか」
「クローエ様やアルマ様には『目覚めよ我が霊』の名のほうが、馴染みがあるかもしれ
ません」
 ランカスターはワインオープナーでコルクを抜くと、三つのワイングラスに酒精を満た
した。太陽の陽射しがクリスタルカットによって偏光され、グラスの中で七色に輝く。
「乾杯の音頭はアイーシャ様がお取りになってはいかがでしょうか」
「わ、わたし?」
「適任だと思いますわ」
 イゾルデが薄く笑う。
「ブォナ! それはいい。お前が呼び集めたのだから、仕切りもお前がすべきだ」
 天京院は不機嫌そうに鼻を鳴らすだけで、何も言わない。
「そんな、私は一番の若輩なのに」
「同じサードクラスだ」
「でも乾杯の音頭なんて、私……」
 アンリエットやニコルが主催する酒宴には何度か足を運んだ経験はあるが、それはあく
まで招待客としてだ。
「初めてだからこそ挑戦の価値がある。先程、お前は『かつての自分ではない』と言葉で
表現した。今度は態度で述べてみろ」
 グラスを手に取り、促すようにアイーシャへ向けて掲げた。
「イゾルデ様の言う通りですわ、アイーシャ様。さ、天京院様も」
「……まるで茶番だ」
 仕方がなしに、天京院もグラスを持つ。
 初めは当惑していたアイーシャもイゾルデやランカスターから向けられる視線の意味は、
不慣れな自分に対する好奇ではなく力強い期待だということに気付いて、覚悟を決めた。
自分はいま、小規模ながらも名誉ある立場についているのだ。

80 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 22:05 ID:???

「……光栄に思うわ。それでは、」
 すくっと席から立ち上がった。グラスを胸の位置まで持ち上げる。
「私は今日で、船を降りるの。午後一番の便よ」
 イゾルデの次だ。
「たった一年の学園生活……素晴らしいことが数多くあったわ。だからこそ、悔いが多く
残っている。天京院さんと親しくなれたのは素晴らしいことだけど、それも最近のこと。
メディチさんとは言葉を交わすのすら今日が初めて。愚かな私は、最後の日にようやく
始まりの場所に立つことができた」
 神秘を孕んだ翡翠の瞳が伏せられた。内部から湧き上がる感情を確かめるかのように。
「いま、私はとても楽しんでいるわ。この喜びこそ私が一年間で得た宝だと確信できる。
……だから、この杯(さかずき)は、別れと旅立ちに手向けるのではなく、学園での黄金
の日々を共有する私たちが、これから深めていく友情のために捧げるわ」
 ワイングラス。雲すらも突き抜ける勢いで、高々とかざされた。
「私たちのこれらかに―――ヤン・セン(Yam seng)!」
 アイーシャの音頭に呼応するかのように、イゾルデもまたグラスを高く掲げた。
「アッラミチーツィア(All'amicizia)!  今から始まる友情に乾杯」
 ふて腐れていた天京院も、心動かされるものがあったのか、アイーシャの晴れ晴れと
した表情を見入りながら、杯を交わした。
「素晴らしい音頭でしたわアイーシャ様」本心から感激したランカスターは跪くと、幼き
卒業者の空いている方の手を強く握り締めた。「本当に素晴らしい音頭でしたわ」
 イゾルデも頷くことで同意した。言葉以上に意思を語るメディチの瞳が、アイーシャを
褒め称えている。
「ありがとう」
 グラスの中味を一息で煽ったアイーシャは、いつになく清々しい表情で微笑みかける。
「私、幸せよ」

81 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 22:06 ID:???


 それでは、ごゆっくりお楽しみください―――チーフメイド兼ウェイトレスは、感動の
余韻が醒めぬうちに自分の仕事に戻った。イゾルデは咄嗟に呼び止めようとしたが、すんで
の所で思いとどまる。多忙なメイドを雑談で長く引き留めるのは非礼に当たる。彼女とは
少し話すべきことがあったのだが―――席を立つときに、また呼び止めよう。
 アイーシャはグラスを干しては満たし、干しては満たした。喜びとは感化するもので
ある。白ワインを水としか思わぬイゾルデは、アイーシャのペースに付き合った。
 だが、天京院は彼女がアルコールにそこまで耐性がないことを知っている。
「おい……ペースを考えたほうが良いんじゃないか? 杏里に見送られる前に酔いつぶれ
たら、目も当てられないぞ」
「そ、そうね。ごめんなさい。あまりに嬉しくて、あまりに美味しくて、つい……」
 まさかこれがランカスターの真意か? イゾルデは訝った。ライバルを蹴落とすための
彼女の策謀―――十分考えられた。鮮やかな手並みだ。無粋とは言えない。
 自重すると言ったもののアイーシャのペースが衰えることはない。天京院が思案に耽っ
ていたり、意識を別のところに飛ばしたりして無言が目立つため、必然イゾルデとアイー
シャの会話が主となる。知識に富み、教養にも恵まれ、何より気配りが――やや過敏な
ところもあるが――利くアイーシャはイゾルデにとって心地よい話し相手だった。自分を
表に出すのは苦手なようだが、親交を深めるため積極的に会話を求めてくる。要領は良い
のだろうが不器用なのだ。寮管理委員会の面子のために、本心でもない説教を天京院に
浴びせてやるのが当初の目的だったのだが―――アイーシャと交わす酒精の味は殊の外
美味だった。実に楽しい一時を過ごせた。アイーシャの将来設計――何でも、学校を設立
するのが夢らしい――について、かなり具体的な内容で盛り上がり始めたとき、壜はすっ
かり空になってしまった。
「お代わりが欲しいけれど……そこはさすがに自制すべきね」
 ちょっと失礼するわ、と言ってアイーシャは席を立った。お手洗いのようだが、酔いを
醒ますつもりなのかもしれない。

82 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 22:59 ID:???
 数分前の談笑が嘘のように冷え切った。仏頂面の天京院―――ワインは二口三口しか
口をつけていない。自分が場違いであるということを認めているものの、帰る場所がない
ため――彼女の城はアンリエットに占拠されているのだ――席を立つに立てない様子だ。
イゾルデは知らなかったが、仮宿にしているアンリエットの私室はことある事にファン・
ソヨンやヘレナが訪ねてきて、この酒席以上に落ち着けない空間と化していた。
 沈黙は暫く続いた。アイーシャが戻ってくる気配はない。天京院の細い指先が、苛立た
しげにテーブルを叩く。
「……理解できんな」
 イゾルデの呟きで、静寂は破られた。
「何がだ」
「アイーシャ・スカーレット・ヤン―――彼女は妬みを覚えないのだろうか。この状況は
彼女にとって決して面白いと言えるものではないはずだ」
 天京院は眼鏡の位置を治した。
「話が見えない」
「アンリエットのことだ。あいつはお前を引き留めるために、部屋を不当に占拠までして
いる。だというのに、今日にも去ろうとしている恋仲のスカーレット・ヤンには何をした」
 ポーラースター随一の頭脳を誇る天才が言葉に詰まった。俯き、ぽつりぽつりと語り出す。
「……杏里はそこらへんはドライなんだよ。それに、船を降りたぐらいじゃ関係は途絶え
ないと強く信じている。その信頼が、きっとアイーシャの安らぎにも繋がるんだ」
「大した分別だな」
 鼻で笑い飛ばす。
 イゾルデは遠回しに、アイーシャの前で鬱々とできる天京院を責めたつもりだった。
だが、皮肉と悟れないほどにサードクラスの天才は疲労しているらしい。
 ポーラースターを卒業するのは彼女だけではない。それをアンリエットも天京院も理解
していないとしか思えなかった。
「その立派な分別を、なぜお前には発揮できないのか。『強い信頼』とやらでお前の卒業
を見送れば何の問題もないはずだ。誰も煩わせることなく、秩序も保たれる」
 天京院の顔に、更に昏い影が走った。イゾルデは内心、驚きを隠せない。歩く計算機の
ような女だとばかり思っていたクラスメイトが、斯くまで傷んだ表情を見せるとは。
 全てはアンリエットの罪というわけか。天京院も、アイーシャも、ランカスターも。―
――彼女も。
 イゾルデは強く胸を押さえた。上衣越しに、裡ポケットに秘めた存在を意識する。

83 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:01 ID:???

「杏里が憤っているのは……多分、私が船を降りることにじゃない」
 言葉を吐くことすら苦痛だという風に、声を絞り出す。
「私は……最低な別れ方をしようとしている」
 だが、そうするより他にないんだ。自分を納得させるにはこれしかないだ。
 天京院の言い分―――まるで、この苦しみを察しようとしてくれないアンリエットが
悪いと言いたげだ。イゾルデは苦笑する。一つの解を彼女は得た。
 これは天京院なりの信頼のカタチなのだ。「甘え」と言い換えても良いのかも知れない。
あの%V京院鼎が自分のエゴをアンリエットに押し付けて、甘えているのだ。
「……天京院、お前は不器用な人間だな」
 イゾルデに釣られるように、天京院も苦く笑った。
「いつも思っているよ。杏里のように単純に生きられたら、とね」
 メディチの再興者は一つの芸術を発見した。このクラスメイトには自嘲がよく似合う。
「飲め、天京院」
 ワイングラスを顎で指した。朝焼けを絞ったかのような清明な葡萄酒が残っている。
すっかりぬるくなってしまっているが、ランカスターが選んだ白ワインは常温だろうと
味を損なわない。
「友情の杯だ。飲み干さなくては、スカーレット・ヤンの想いを踏みにじることになる」
 天京院は深く溜息を吐いた。
「……イゾルデ・メディチ。君にこういうことを言うのはおかしなことだと思うがね。
一応言わせてもらうよ。私は不器用だが、やっぱりアレは本心なんだ。偽りのない本当の
理性なんだ。つまり私にとって、ここでの人間関係なんていうものは―――」
「同感だ」
「え?」
 天京院は意外そうに顔を上げた。
「私もお前の意見に同意する。メディチの揺るぎなき信念が保証しよう。私はお前の考え
を間違いだとは思わない。―――アンリエットのしていることは、滑稽の極みだ。まったく
の無意味だ。お前を躊躇わせるいっぺんの理由にすらなっていない」
「……なんだと」
 天才の声が険しく歪む。
「お前も気付いているはずだ。あいつの行為はお前を船に留める理由にならん。お前が船
を降りた後、改めてメイドに部屋の片づけを任せればいいだけだ。攻城兵が去れば、門は
また開かれる。籠城の意義が消失するからな。つまり、時間を割いてまであの部屋を攻め
落とす価値はないのだ」
「……」

84 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:01 ID:???

 天京院は言葉を返せない。自分が矛盾を孕んでいることを、痛いほど自覚している。
「あの女は愚か者だよ。今回のことからもそれがよく分かる。自分のエゴを押し通すため
に、どれだけの人間が骨を折ったことか。一つ間違えれば、自身の進退はもちろん寮管理
委員会の処分も免れなかった。ヘレナ・ブルリューカの嘆願があいつを救ったのだ。ラン
カスターも自分の立場を危うくしてまで力を貸した。ファーストクラスの面々だってそう
だ。分かるか? あいつの謳う至高の愛とやらは誰かの犠牲の上に成り立つものなのだ。
だが、本人はそれに気付こうとしない。気付かないからこそ、お前のような奴を悩ませ、
痛めつける。理不尽だと思わないか、天京院」
 しかも、そんな数々の犠牲によって為された企みもまったくの無駄だというのだから、
余計に滑稽だ。―――イゾルデの高らかな哄笑がカフェーに響いた。
 白衣の裾が翻る。天京院は椅子を蹴飛ばすように立ち上がると、鴉色の瞳に憎悪を滾ら
せて、クラスメイトを睨め付けた。
「お前に彼女の何が分かる!」
 彼女が入学してから下船を間近に控えた今日まで、これほどの怒声を上げたことはない
のではないだろうか。思わぬ人物からの怒鳴り声に、冷静を義務とされているメイドすら
も目を丸くした。学園の乙女たちに至っては凍り付いて動けない。
 天京院はワイングラスを乱暴に持つと一息で煽った。
「失礼する……!」
 白衣をマントのようにはためかせて踵を返す。荒々しい足取りで席から離れていった。
 怒気が放射される天京院の背中を、イゾルデは醒めた目で眺め続ける。

85 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:02 ID:???


 ようやくアイーシャが姿を現した。静まりかえったカフェーの雰囲気に困惑しつつ「天京
院さんは?」と間の外れた問いかけをしてくる。帰った、とイゾルデは短く告げた。
「どうやら私が怒らせてしまったようだ」
「そんな……」
「追ってやってくれ。アンリエットとの約束の時間まで、まだ余裕があるだろう」
 アイーシャは逡巡を見せた。事態を掴み切れていないのだ。
 あれだけ愉快なお喋りに花が咲いていたというのに、戻ってきたときには花弁は散り、
茎は萎び、葉は枯れていた。彼女自身が怒り出してもおかしくない状況だ。イゾルデは
悪いと思いつつ、天京院を追うよう促した。
「"Chi trova un amico trova un tesoro"―――『友に巡り会えた人は宝を手に入れたの
と同じ』……イタリアの諺だ。私はお前と友情の杯を交わした。つまり、私は宝を手に
した。私はお前のアミーカだ。ならば船を降りても必ずまた会える。今は、たかだか卒業
程度も満足にできない不器用な天才のほうに、お前の優しさを注いでやれ」
 イゾルデの言葉でようやく意を決することができたのか、アイーシャは強く頷くとその
場を去った。「私から必ず連絡をするわ」と頼もしい言葉を残して。
 まったく面倒な連中だ。イゾルデは失笑を漏らした。
 イゾルデ・メディチはシンプルな女である。メディチによって作られ、メディチによっ
て鍛えられ、メディチによって殺される。そう信じている。彼女の全てはメディチという
一言で説明がつくのだ。故に迷いも葛藤もない。既にイゾルデは答えを得ている。
 だから、行き詰まっては悩み、矛盾を持て余し、自分という神秘を少しも暴けない天才
様が新鮮でしかたなかった。―――つい余計なお節介を灼いてしまうほどに。
「ええ。本当にイゾルデ様らしくありませんわ」
 背後から声がかかる。振り向かずとも分かった。イライザ・ランカスターだ。小言の一
つでも言いに来たのだろうか。些細とは言え、彼女が取り仕切るカフェーで揉め事を起こ
したのだ。甘んじて受け入れねばなるまい。
「アンリエットの真似をしてみたつもりなのだがな」

86 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:03 ID:???

 ご冗談を、とランカスターは嗤う。いつもの笑みを装っているつもりだろうが―――
これは本心からの嗤笑だな、とイゾルデは見抜いた。
「……怒っているのか」
「イゾルデ様は勘違いしておりますわ」
 空いたワインボトルやグラスをてきぱきと下げられた。ランカスターの口調は穏やか
だが、どこか棘がある。
「私は、杏里様へ奉仕――イゾルデ様は『犠牲』などと仰いましたが――できることに、
心から幸福を感じています。杏里様の力になれることがこの上ない悦びなのです。なのに
あんな言いよう……わたくしも天京院様と同意見でございます」
 アンリエットの何が分かる、か。
「それを言いにわざわざ来たのか。ご苦労なことだ」
 ランカスターは食えない女だが、アンリエットを餌にすれば他と同様やはり御しやすい。
ご覧のように、まんまと釣られた。
 さて、もう一つの目的を果たすとするか―――ワインクーラーを片付けようと伸びた
ランカスターの右手。イゾルデは強く掴んだ。そのまま力に任せて引き寄せる。
「メディチ……さま?」
「イライザ・ランカスター。今日という今日は逃がさん。私の話に付き合ってもらおう。
用件は分かっているはずだ」
「しかし、いまは仕事中ですから―――」
 また後ほど、とは言わせない。あと二時間もせず自分は船を降りるのだから。
「時間を作れ。今すぐにだ」
「……強引なのですね」
 他人に関わることは好まないが、いざ影響を及ぼす段になれば有無を言わさない。それ
がイゾルデのやり方だ。
 ランカスターは人のあしらいがうまい。が、彼女の手管をイゾルデは理解している。
この手の食えない女は搦め手より力押しに弱い。そうでなくても、イゾルデ・メディチの
言葉に真っ向から逆らえる者など船内では限られている。生徒とメイドという立場の差を
無視したとしても、ランカスターの不利は否めない。
 気品に富んだメイドは疲れた吐息を漏らした。観念するより他はない。

87 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:04 ID:???


             * * * *
            


 カフェーで話し込むのは他の生徒の目があるため好ましくない。そう言ってランカスター
はカリヨン広場から離れ、校舎へと誘導した。窓から中庭が臨める右腕廊下は、この時期
授業が無いため人影がまばらだ。時々忙しくメイドが通り過ぎる他に人目はない。
 ランカスターは落ち着けるところを探したが、イゾルデはここで良いと断った。立ち話
で十分だ。早速、本題を切り出す。
「私と一緒に船を降りろ」
 礼装用の白手袋を手にはめつつ言った。
「お誘いはたいへん嬉しいのですが……」
 ご好意だけ受け取らせて頂きます。そう言って微笑むランカスターには微塵の動揺も
窺えない。にこにこと得意の笑顔を浮かべている。
「私が冗談で言ってると思うか?」
 イゾルデもまた口端に笑みを称えた。相手を凍えさせる簒奪者の戯笑だ。
「滅相もございません。メディチ様のお気持ちは深く理解しているつもりですわ」
「ならば聞け」
 すっと笑みが失せた。
「まさかお前がメイドのまま、卒業を迎えるとは思ってもみなかった。これ以上の損失を
捨て置くことはできない。秋になれば、お前の元クラスメイト達はサードクラスに繰り
上がる。サードという学年は卒業後の準備期間に等しい。今更、お前が復学を目指した
ところで得るものは少ない。セカンドから再スタートするというのは尚更非効率だ」
 で、あるならば。お前が船に留まる理由はもう無いはずだ。―――刺突剣の如く鋭い
口舌がメイドを襲う。
 ランカスターは両手を前で合わせ、瞼を伏せてイゾルデの言葉を聞いた。その優雅な
所作からも出自の貴さが知れる。女中の身分に甘んじて良い女ではない。
 ランカスターはゆっくりと目を開いた。かつて英国で大流行したシャム猫を彷彿とさせ
る、鋭いながらも蠱惑に満ちたルビー色の瞳。感情の揺らぎは見えない。野心と矜持で激
しく燃え上がっていた頃の名残は消え失せ、不敵とも呼べる穏やかさが支配している。
「メディチ様。あなたの好意を無下にしてしまうのはたいへん心苦しいのですが、私の
返事が変わることはございません」

88 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:04 ID:???

「……この私の助けを徹底的に拒むか」
 イライザ・ランカスターが背負った借金は膨大だ。メイド風情が一生涯かけて働いた
ところで返済は不可能だが、学費が払えぬからという理由で船から放り出し、何の庇護も
受けられぬままシャイロックどもの餌食にされるのは忍びない。そんな学園長の恩情から、
ランカスターはメイドの身に甘んじてきた。だが、メディチが助力を惜しまねば、借金の
完済……は難しいと言え、通常の社会生活を営むことは十分に可能だった。メディチの
庇護を受けるという事実は、それほどに強力なのだ。
 イゾルデは進んで他人の世話をする性質ではない。だが、彼女だけは例外だ。有能な
才覚は財産である。イライザ・ランカスターの強さ、誇りの高さを人一倍買っているイゾ
ルデは、このまま彼女が下働きの女中として若さを浪費させていくのが許せなかった。
 自分が船を降りたら、いよいよランカスターの未来は限られてしまう。
「他人の力を乞うことはお前の矜持を傷付けるのかもしれない。だが、私とて恩に着せた
くて言っているわけではない。お前の両親が返り咲けば私も身を引こう。何も私は、忠誠
を誓えと強要しているのではない。これは出資だ。お前という可能性に、投資をしたいと
申し出ているのだ。―――これでもまだ、納得できんか」
「昔の私なら、情けは無用と拒みもしたでしょう。メディチ様のご期待を、憐れみとしか
見なせなかったかもしれません。……ですが、今は、ほんとうに、心からあなたに感謝を
しております。どうか信じてください。私はいま大変喜んでいます」
 メイド仕込みの崩れぬ笑み―――僅かだが、口端が悪戯っぽく歪んだ。
「私が遠慮をしているのは矜持とか、屈辱とか、そういう理由ではございません」
 ならば考えられる理由は一つしかない。
「……また、アンリエットというわけか」
 無性に疲れを覚えて、イゾルデは壁に寄りかかった。

89 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:05 ID:???

「メディチ様はあの方がお嫌いですか」
「少なからず恨みは抱いているよ。私は、孤高を畏れず、一人で生き抜く意思を持つ者を
愛する。だが、そういった者ほどあの女の囁きに抗えない。あいつは女を弱くする。お前
や天京院が良い例だ」
 胸に手を置く。裡ポケットに眠る写真―――彼女だって例外ではない。
 ランカスターは瞼を伏せた。
「メディチ様が、あの方より年上だという幸運に、私は感謝をせずにはいられません。
もしあの方より年下であったら……私はきっとメディチ様にたいそうやきもちを妬いた
ことでしょう。とても敵わない相手ですわ」
「私にそのような性癖はない」
 イゾルデは生真面目に答えた。
「あまりぞっとしない例えをしてくれるな」
 これは失礼致しました、とランカスターは一礼する。その様子をイゾルデはメディチの
瞳をもって観察した。厳めしい目付きは生来のもので、相手を威圧する意図がなくても
負担を与えてしまう。が、ランカスターのような賢しい女に通用するはずがなく、きょと
んと惚けた視線を返された。
「……わたくしに、何か?」
 イゾルデは目を細めた。見れば見るほどに惜しい。器量に優れ、気品に富み、狡猾さと
情熱を併せ持つ怜悧な頭脳の持ち主―――ここで彼女を諦めるのは簡単だ。踵を返して船
を降りればいい。だが、それでは自分を許せない。メディチの血が、不遇を甘んじるラン
カスターの存在を看過できずにいる。
「……お前も英国人なら理解できるはずだ」
 壁にもたれたたまま腕を組む。声音は低い。可能な限り自分を抑えて言葉を続ける。
「『すべて多く与えられた者は、多く求められ、多く任された者は、更に多く要求される』
―――お前の才は、全ての人が持ち得るものではない。お前は生まれついての富める者だ。
選ばれし者には相応の地位につき、責任を全うする義務(ドヴェーレ)がある。お前が
このまま使用人に身をやつすのは、社会的義務からの逃避に等しい。持って生まれた才を
活かさぬのは罪だ」

90 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:06 ID:???

「メディチ様、私は成り上がり商家の娘ですわ」
「だからなんだというのだ。そんなことを言ったら英国自体が海賊の国ではないか。花の
女神の街に比べたら、何とも歴史の浅きことか。私は家柄の話などしていない。イライザ
・ランカスターという個人が持つ気高さに執着しているのだ」
 執着―――自分で言っていては世話がない。
 イゾルデの理屈は時代錯誤も甚だしかったし、他人から非難がましく言われるような
ことでもなかった。だが彼女は信じている。ランカスターなら己の言葉を理解する、と。
かつては選ばれし者という自負によって自分に挑戦してきた、ランカスターなら……。
「―――メディチ様、わたくしの我が儘をお許しください」
 後ろで纏めアップにされた金髪が揺れた。ランカスターの返事に迷いはない。
「この身分が罪だというのなら、私はそれを甘んじて受け入れます。この罪を背負った
まま、まだ暫くの時を船で過ごすことがわたくしの望みでございます。どうか卑しき罪人
である私を、蔑んでください。でも、これだけは確かなのです。―――私を救っていいの
は杏里様だけですわ」
 学徒から使用人に立場を変え、心根を改め、鋭さを失おうとも、彼女の芯の部分はかつ
てのイライザ・ランカスターのままだった。頑迷で、頑固で、一度決めたことを曲げよう
としない意固地な少女だ。まるで鏡写しの自分を見ているかのような錯覚に囚われる。
 イゾルデはくつくつと声を上げて笑った。
「お前は度し難い愚か者だ。あまりにも救いがない。地獄を巡遊したダンテとて、お前
ほど業が深い咎人を見たことはないだろう」
 ランカスターのルビーの瞳に小悪魔の色が浮かんだ。
「ならば、愚かな罪人である私に、罰として折檻を与えてくださいますか?」
 ランカスターはイゾルデを見上げる。身長差は十センチ弱。危険な媚びだ。アンリエッ
トの気持ちを理解したくなるほどに。
 指先をつっとランカスターの細い顎に這わせ、僅かに持ち上げた。
「悪くない誘いだ。一考の価値はある」
 すぐに力を抜いて腕を降ろす。
「しかし、罰を定めるのが検事の職務ではあるが、罰を与えるのは刑吏の務めだ。私の
職分から外れている。そしてお前には専属の刑吏がいる。ならば罰は、彼女からねだるの
が道理だ」
 ランカスターはくすりと笑った。
「私だけの刑吏でいてくれないから、時には不満も覚えます」
 イゾルデもまた苦笑で応えた。

91 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:07 ID:???

 イゾルデは別に納得をしたわけではない。説得も諦めてはいなかった。未だに釈然と
しないものが残っている。高貴なる者が背負うべき義務―――何としてでもランカスター
に履行して欲しかった。彼女には一秒でも疾く高みに立って欲しかった。
 だが、イゾルデがいくら言葉で説いたところで、徹底的に現状を肯定しているランカス
ターの心を揺るがすことは適わない。今は退くしかなかった。一年後―――アンリエット
達が船を降りるその時、また選択を迫ればいい。それまでの間にランカスターの両親が
返り咲くことを祈る。
 下船の時刻が迫っていた。ルネも待っているに違いない。ランカスターと話せたことで
所用は全て済んだ。正門まで見送ろうとするメイドの誘いを辞退して、イゾルデはその場
を後にしようとした。
「ニコル様とお別れをしなくてもよろしいのですか」
 機を狙っていたかのような鋭い一撃。これだから油断できない。
 イゾルデはゆっくりと首を振った。
「必要ない。あれは天京院の部屋に閉じ籠もっている」
「出入りは自由ですわ。杏里様もアイーシャ様をお見送りするために、部屋から出ると
仰っています。ニコル様だってメディチ様が船を降りると知れば―――」
「必要ないと言った」
 余計なことはするなよ、と釘を刺す。ランカスターは肩を竦めた。
 裡ポケットに秘めた写真。焦げ付くほどの熱を感じた。気のせいだと思考を振り払う。
「仕事に戻れ」と言葉を残して、さっさと歩を進めた。
 ランカスターはイゾルデの背中が見えなくなるまで見守るつもりなのだろう。廊下を
十数メートル進んでも、変わらぬ姿勢で立っている。
 足を止めた。振り返る。
「イライザ・ランカスター!」
 未練がましいと思いつつ、言わずにはいられなかった。
「精々覚悟することだ。次は庇護や投資などという生温い理由は用いない。容赦なく征服
にかかる。服従を強いる。お前の事情など一切無視して義務を為すよう強制させる」
 小公女サァラは屋根裏の魔法を拒むことを許されない。シンデレラに王子の好意を拒否
する権利はない。ランカスターも同じだ。いつまでも灰被りではいられない。そのことを
いずれたっぷりと教育してやる。頑固な後輩だが、だからこそやり甲斐もある。
「わたくしは杏里様のためのメイドですが―――」
 金髪の罪人は天使の微笑を口元に称えた。 
「挑戦にはいつでも受けて立ちますわ」
 そう、或る先輩から学びましたから。ランカスターが付け加えた言葉を、イゾルデは鼻
で笑い飛ばした。まったく、食えない後輩だ。









         
                      to be continued........(下編に続く)

92 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:09 ID:???

        サフィズムの幻想 初夏の特別シナリオ
      『フィーネ・プリマヴェーラ さよならイゾルデ!』



                 後編

             
             
             
             
             
            
 閑散としていた右腕廊下に比べて、中央の大廊下は活気に満ちていた。
 日中はまず喧騒が途絶えることのない大廊下は生徒の交通の中心部だ。学園の背骨と
呼んでも差し支えない。立体に交差する吹き抜けの通路にも乙女たちの姿が目立った。
 そんな場所のためか、イゾルデのような学園の「有名人」が一人歩きすると途端に視線
の槍衾が殺到する。波が引くように喧騒が鎮まり、畏怖、好奇、嫉妬、羨望、憧憬、恋慕
―――百人百様の想いがこめられた眺望の雨が豪華王の後継者を捉えた。
 だが、上下左右天地無用余すことなく視線でねぶられているにも関わらず、イゾルデは
まったく気負うことなく大廊下を闊歩する。見せ物ではないが隠すほどのものでもない。
道化扱いはメディチを名乗ったときから始まっている。勝手に道を開けてくれるのだから
むしろ好都合だ。
 ―――イゾルデは聡明だが、そんな彼女の威風堂々とした在り方が、余計に視線を集め
る原因になってることまでは覚ってないようだ。
 大廊下の色調もだいぶ明るくなったな。彼女が注目の矛先に立って考えることなどその
程度だった。
 大廊下には象牙色の上衣を着た生徒たちの姿が目立つ。ファーストクラスの証左―――
鳩羽色の制服もちらちらと確認できるが、サードクラスの制服はまったく見当たらない。
殆どのサードはこの数日間で下船していた。残っている者は数えるほどしかない。
 サードクラスの特徴―――深みのある菖蒲色が背景から消えただけで、斯くまで眩しく
思えてしまうものなのか。最高学年の威厳がポーラースターの色彩を調えていたのだ。
イゾルデは改めて自分たちの責任の重さを実感した。
 だが、二ヶ月もすれば繰り上がった小娘たちが新たなヴィオーラとして、眩い輝きを放つ
ファーストやセカンドに調和を説くことになる。ここで自分が為すべきことは終了した。
この制服を纏うのも今日が最後だ。

93 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:10 ID:???


 天京院の苦悶の表情が浮かび上がる。
『私は……最低な別れ方をしようとしている』
 知識と技術を習得するための入学。天京院は、三年間の学園生活に於いて研究と学習
以外の全てのものは、必要のないものだと断言したらしい。
 わざわざ口に出すことではないな、とイゾルデは思う。当たり前すぎる理屈だ。この
時代にガリレオが「Eppur si muove !!」と叫んだところで、賛同こそするものの誰も深く
は頷かない。当然の理屈を説かれても白けるだけだ。
 イゾルデは天京院に同意した。あの時、カフェーで「お前は間違っていない」と言った
のは揶揄ではない。偽らざる本心だ。理は彼女にある。
 アンリエット達の突飛な行動。天京院の矛盾と苦しみ。アイーシャの涙をこぼしかねない
喜び。そしてランカスターの決断。『私を救っていいのわ杏里様だけ』―――「理」から
遠く離れ、不合理で非効率な情念を掲げる乙女たち。イゾルデの鉄血の精神は、彼女たち
の在り方に正当性を認めない。奴等は間違っている。まったく理性的でない。
 天京院の相剋。理性と未練の葛藤。倫理の軍配は「理性」に上がる。だが――イゾルデ
の口端が持ち上がる――『面白い』のは「未練」だ。芸術品としての価値を見出せるのは、
イゾルデの中で激しく燃えるパトロンの血を刺激するのは、間違いなく「未練」だ。
 彼女たちの倫理に正当性はない。それは揺るがぬ事実だ。だが、いつだって芸術は社会
の規範から外れた者が生み出す。僅かでも理を重んじる聡さがあれば創造など企むものか。
 芸術家とは例えるなら荒野を歩く狼だ。集団から遠ざかることで自己を確認するアウト
サイダー。自らの裡に眠る神秘を愛するからこそ、彼等は社会から離れずにはいられない。
 なぜ、フィレンツェでメディチは必要とされたのか。なぜ、メディチは出資者として
多くの芸術家を擁護したのか。―――自己の宇宙に住まう彼等と社会を結びつけるには、
メディチのような仲介役が必要だったからだ。彼等が創造した小宇宙に社会的価値を付随
させるためには、メディチのような鑑札者が必要だったからだ。
 メディチは芸術家にはなれなかった。創造の能力が欠如していた。だから理解はでき
ない。しかし、受け入れることはできた。進んで芸術家の庇護者たらんとする者こそが
メディチなのだ。
 理解できぬものこそ愛せよ。神秘を嘲笑う者にメディチの資格はない。

94 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:11 ID:???

 イゾルデは思う。自分はこっちで、天京院はあっちの人間だ。天才に分別に富む理性は
必要ない。矛盾、葛藤、慟哭―――内的闘争が芸術家を至高へと突き上げる。
 現代の豪華王は薄く嗤った。大いに足掻け天京院。それが集団に背を向けた狼の宿命だ。
 もちろん、本人に言ったところで頑なに否定されるだけだろうが。なまじっか天才に
生まれると、人より余計に苦労を追わせられる。その不条理こそが至高へと至る階段なの
だが、当人からすればたまったものではないだろう。
 厳格で知られるイゾルデだが、フィレンツェっ子としての矜持がある。伊達や酔狂を
否定するようなイタリア人はイタリア人ではない。いつだって彼女は自分を驚かしてくれ
る者を愛した。あの小賢しいランカスターのように。スカーレット・ヤンのように。
 ……カッシーネ公園で交換した山イチゴのジェラードのように。
 アンリエットはどうか。自問したら失笑がこぼれた。如何に芸術を愛そうとも、あの女
にだけは出資できそうにない。崇高な内的探求者から「孤独」という気高き武器を奪い
取るアンリエットは芸術の簒奪者だ。メディチの敵だ。とても恐ろしい敵だ。



             * * * *
             
             

 巨人の国に迷い込んだかのような、壮大な柱廊――サン・ピエトロ大聖堂の大天蓋より
高い天井は、仰ぎ見るだけでも苦労を要する――を抜けて学園正門へと繋がるエレベータ
ーホールに辿り着いた。人の気配はない。大廊下の騒々しさが嘘のようだ。鏡面の如く磨
き抜かれた床が、ただでさえ広大な空間を余計に広く錯覚させた。
 ……少し、静か過ぎはしないか。
 イゾルデは訝しむ。大柱廊奥のエレベーターホールは、荘厳な内装とは裏腹に、立地の
都合で生徒が利用する機会は少ない。ここで降りるにしても乗るにしても、校舎や寮から
の距離が離れすぎていた。イゾルデも学園正門に直通しているから利用するだけで、普段
は滅多に訪れない。―――だが、人気がまったくないというのは異常だ。
 不穏な気配に注意を向けつつ、さりとて決して臆せずにホールを進む。過度な静寂の中
では、足音すらも過剰に響き渡る。
 そんな孤独の世界で、周囲の調度品に溶け込むかのように―――ルネ・ロスチャイルド
がエレベーターの白亜の扉に背を預けていた。
 顔を俯かせ床に視線を落としているせいで、表情の判別はつかない。だが、鮮やかな
イエローゴールドの髪に褐色の肌はルネだけのものだ。何より、あんな「ちびっこい」
学園生をイゾルデは他に知らない。

95 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:12 ID:???

 怪訝に眉をよせる。待ち合わせの場所は左舷エントランスホール(学園正門)のはずだ。
ここは交通の手段が限られているから、わざわざ気を使ってエントランスを指定したの
だが。あえて、此処を選ぶ理由が見出せない。訝りつつ「どうした」と呼びかけた。
「道に迷いでも―――」言葉は最後まで紡ぐことを許されなかった。
 ローファーが床を叩く。スカートの裾が羽ばたき、スカーフが風になびいた。
 どん、と腹部に衝撃が走る。床を蹴って疾走するルネが、頭からイゾルデの下に飛び込
んだ。いや、抱き付いたと呼ぶべきか。より正しい表現は「吶喊した」だ。
 ルネとイゾルデの体格の差は身長差約三十センチ、体重差十キロに及ぶ。それにコンピ
ューターゲーム遊びばかりで鈍った筋肉が付け加わるのだ。ルネがいくら全力で突撃しよ
うとイゾルデはびくともしない。
「……何のつもりだ」
 鬱陶しげに溜息を吐いた。相手がルネでも、肌が触れ合うようなスキンシップをイゾ
ルデは好まない。
「―――なんか楽しそうだね」
 胸に顔を埋めたまま喋るため、ルネの声はくぐもって聞こえた。
「イズーがそんな面白そうな顔してるの、あんまり知らない」
「私はいつも通りだ。何も楽しんでなどいない」
 揺るぎなき本心。だがルネは耳を貸そうとしない。
「卒業しちゃうだから。船から下りちゃうんだから。みんな悲しんだり、寂しがったり
……バカな奴は泣いたりしているのに、イズーはすっごく楽しそうにしている」
 腰に抱き付いた両腕に、ひしと力がこめられた。
「―――そう言うの、なんか、むかつく」
 謂われのない批難だ。イゾルデは別に卒業を喜ぶ気も悲しむ気もなかった。ただ時を迎
えただけだ。そんなことを理由に反抗的な態度を取られるのは心外だった。
 だが、イゾルデが気になったのはまったく別の事実だ。

96 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:13 ID:???

「泣いているのか」
「……」
 沈黙の応答が真実を物語っている。抱き付いたまま離れず、先程から一度も顔を見せよう
としない。―――どうも様子がおかしいと思った。
「離れろ。私の上衣を涙で汚す気か」
「どうせ、もう着ないんだから良いじゃん!」
 それもそうだな、と納得してしまう自分の愚直さが滑稽に思えた。やはり自分は理の
人間だ。この状況でルネの正当性を認めてしまうなんて。
「……いったい何が悲しいんだ」
 引き離すことは諦めて金髪の頭に手を乗せた。
「全部だよ」とルネは答える。「全部、何もかも、みんな……」
「やめておけ。ペシミズムは孤独との闘いだ。お前には耐えられまい」
「―――だって! 明日から、イズーはもうこの船にいないんだよ!」
 イゾルデの慰め(らしきもの)を無視して、ルネは感情の昂ぶりを一気に吐き出した。
「昨日まで、当たり前のようにいてくれたのに。明日にはもういないんだよ。明後日も、
明明後日も、一週間後も、一ヶ月後も―――イズーはいないんだよ!」
 そんなの無理。絶対に我慢できない。耐えたくない。嗚咽まじりに吐露する。喉がひく
つき、肩が大きく揺れた。壁に反射して、ルネの泣き声はホールに余韻を残す。
 口にこそ出さないが「そんな理由か」とイゾルデは苦笑せざるを得なかった。ルネは
まるで今生の別れのように言うが、新生メディチ家とオーストリア・ロスチャイルド家の
親交は深く、イゾルデが社会の表舞台に立てばその関わりは一層密接になる。ジューイッ
シュの傀儡に成り下がるつもりは無かったが、ロスチャイルドの力は無視するにはあまり
に巨大過ぎた。―――つまり、ルネとイゾルデの絆は例え強く反目し合っていようと消せ
るものではないのだ。
 イゾルデは船を降りて暫くブダペストで法学を学ぶつもりだ。オーストリア・ロスチャ
イルド家は二重帝国時代からハンガリーにも強く影響力を残している。メディチに恩を
売りたくてたまらないロスチャイルドは、イゾルデの世話を買って出た。資金や情報の
援助の他、急な決定にも関わらず住む場所まで面倒を見てくれた。ドナウ川沿岸、ブダ
地区にある別荘を貸すと言うのだ。ロスチャイルドの持ち家である。ルネは会おうと思え
ばいつだってイゾルデと会えた。
 そうでなくても、今の時代には離れた距離をゼロに錯覚させる装置――国際電話、電子
メール、オンラインチャット――が揃っている。今生の別れの如く涙を流す理由などない。

97 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:14 ID:???

「それに、船に残ると決めたのはお前自身の意思だ」
「……そうだけど」
 ルネが編入した理由―――ジュリアーノの件でイゾルデと接触するため。当初の目的が
完遂されたいま、ルネはポーラースターに残る理由がない。イゾルデと一緒に船を降り、
オーストリアに帰れば、隣国のハンガリーにはいつでも気軽に遊びに行ける。
 だが、ルネはセカンドの制服を纏うことを選んだ。
「だって……あたしが船を降りちゃうと、ソヨンとかうるさいし」
 彼女にとってイゾルデは他の何よりも美しく輝く黄金だった。が、イゾルデだけが彼女
の全てではない。イゾルデは勝りこそしないものの、鮮烈な煌めきを放つ黄金とルネはポ
ーラースターで出会うことができた。だから船に残るのだ。
「人は財だ。良き友人は精神を豊かにする。お前がそのことに気付けただけでも、H.B.Pに
入学した甲斐があった。船に残るというお前の決断には私も賛成だ」
 手櫛で髪を梳かすように、ルネの頭を撫でた。
「……成長したな、ルネ」
「イズーはずるいよ」
 こんな時だけ優しくしてくれるなんて。嗚咽に遮られ、何度もつっかえながらルネは
そう口にした。
 イゾルデの口元に微笑が浮かぶ。
「明日からは一人で眠れるな」
「……今日だってあたしの部屋で寝たもん。これからはもう、イズーの部屋には忍び込め
ないから……イズーの部屋が無くなっちゃうから……あたしは一人で寝たんだよ」
「お前は独りではない。友人がいる。孤独を覚えた夜は、友の寝台を借りればいい」
 ルネの両腕から力が抜けた。身体を離すと、涙でぐしゃぐしゃになった顔でイゾルデを
見上げる。
「―――イヤだよそんなの。だって子供っぽいもん」
「いひっ」っと、嗚咽とも笑い声ともつかぬ音が彼女の喉から漏れた。
 イゾルデは苦笑しつつ、深く頷く。
「ああ、まったくその通りだ」

98 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:14 ID:???

 
 昇降パネルをいくら弄ってもエレベーターは来ない。不信に思ったイゾルデが問い質す
とルネは「いま貸し切り中なんだ」と悪びれもなく言い放った。
 思い当たる節があって、周囲を見回す―――やはり人の気配は皆無だ。道理で様子が
おかしいと思った。これもルネの仕掛けだったのか。
「まさかクラックしたのか」
「そんなことしないよ。ちゃんと学園長の許可は取っているってば」
 ルネはポケットから取り出したキーを、昇降パネル下部のシリンダーに差し込んだ。
右に捻るとパネルに光が灯り、一秒と待たずにエレベーターの扉が開いた。
「……なにを企んでいる」
「んー、それは乗ってからのお楽しみ!」
 さっきまでの泣き顔が嘘のように、ルネの表情に喜びが走る。
 このホールでは五つのエレベーターが本来は稼働しているはずなのだが、今はどれも
動いていない。利用者が少ないとはいえ、エレベーターの区画をまるごと一つ貸し切って
しまうなんて「ルネらしくない」酔狂だった。イゾルデの知る彼女には、そういった大仰
なイベントを計画する発想はない。
 エレベーター内の色調はホールと同様に灰褐色で統一されている。余裕をもった面積が
確保されているのだが、二人がけのソファが奥に据えられ、中央にはアイボリー仕上げの
コーヒーテーブルが立っているため、見た目ほど多くの人を乗せることはできない。四人
か―――多くて五人程度を運ぶことを想定して、内装が調えられていた。
 テーブルの上にはスクウェアタイプの小さな水槽が据えられ、中でブルーディスカスが
藻の隙間をすり抜けて、ちょこちょこと泳いでいた。水槽の底に設置された蛍光灯により
ライトアップされ、幻想的なインテリアの役割を果たしている。
 昇降機というより小さな待合室と呼びたくなる内装だが、ポーラースターではこれが
一般的なエレベーターのレイアウトだ。生徒が鮨詰めになることは絶対にあり得ない。
 特に警戒もせず立ち入った。それは油断だったのかもしれない。この貸し切りが意味
することは何か、気に掛かりはしたが、ルネの笑顔から、自分を驚かすための他愛もない
トリックが仕掛けられているのだろう―――そう軽く考えてしまった。イゾルデの胸で
むせび泣いたルネは、その慟哭のお陰で未練まで断ち切ったかのように、すっきりと気持
ちの良い表情をしていた。

99 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:15 ID:???

 エレベーターに踏み入るとソファに腰掛けた。カフェーで休息を取ったものの、午前中
は殆ど歩き通しだった。足が悲鳴を上げている。労ってやらねば。
「ルネ、B4階―――正門の階だ」
 注意が自分の疲労に向いていたため、イゾルデは気付くことに遅れた。続くべき少女の
姿がない。ルネ・ロスチャイルドはホールに留まったままだった。
「……ねえ、イズー。これだけは信じてね」
「何がだ」不穏な空気を感じて腰を上げた。
「あたしはもう大丈夫だよ。イズーがいなくっても一人で頑張るよ」
 やはり彼女はエレベーターに入ろうとしなかった。まるで「ここでお別れ」と言わん
ばかりに佇立している。卒業者への見送りは正門で行うのが常識だ。イゾルデもそのつもり
だった。だが、そんなことを言い出したら、そもそもルネがエレベーターホールでルネが
待っていたこと自体が予定と違う。
「イズーが明日からいないのは、すっごくイヤだけど……あたしは分かってるから。イズ
ーは世界で一番大きくなれるって。この船も大きいけれど……でも、イズーには小さすぎ
るもん。それに、あたしもイズーは誰よりも大きい人でいてくれないとイヤだ」
「大も小もない。私の使命はメディチを再興させることだ。……まったく、分かり切った
ことを言わせるな。さあ、早くお前も―――」
「信じてイズー。あたしはアンリエット先輩みたいな、子供っぽいことはしないよ。だっ
て、寂しいけれど……あたしは頑張って納得したんだから」
 金髪の少女はシリンダーに突き刺していた鍵を捻った。扉が滑り、閉まり始める。
「ルネ!」
 咄嗟に操作パネルの開放ボタンを押し込んだ。反応無し。立て続けに押したが、ライト
すら灯らなかった。―――内部からの操作を受け付けていないだと。
「……だから、あたしを怒らないでねイズー! これはそういうのが納得できない子供
みたいなバッカな奴が悪いんだよ。全部そいつのせいなんだよ」
 扉の隙間に手を伸ばすが―――間に合わない。完全に閉ざされる瞬間、ルネはいつもの
ように両目をつぶって歯を剥き出した。喉から「いひっ」と笑いが漏れる。
「それに、天京院先輩ばかり不公平だもん!」
 視界が灰褐色の扉で埋まる。がくん、とエレベーターが揺れた。イゾルデを捕らえた
密室は降下を始める。
 ルネはさよならを言わなかった。

100 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:15 ID:???


             * * * *
             
             

「……何のつもりだ、あいつは」
 操作パネルはどのボタンを押しても反応を示さない。システムから完全に切り離されて
いた。完全に閉じ込められたわけだ。
 ルネは「学園長の許可は取ってある」と言ったが、こんな危険な真似を許すとは思えな
かった。学園長は破天荒な方だが、安全面に関しては神経質なまでにうるさい。エレベー
ター区画貸し切りの許可をルネが拡大解釈したのだろう。
 透明なプラスチックのカバーに覆われた緊急ボタンを睨む。ルネに一分でも理性が残っ
ているのなら、外部との連絡手段を全て断ちはしまい。恐らく、ボタンを押せばポーラー
スター・セキュリティと連絡はつく。だがそれは同時にルネの処分を意味した。船の管理
システムに侵入したのだ。停学では済まない。
 ことを公にするのは躊躇われた。事件はまだ、何も起きていないのだから。―――甘い
とは自覚している。道理に基づくなら、彼女には相応の罰を与えるべきだ。「悪ふざけの
つもりだった」なんて理由は減刑の根拠にならない。だが、責任を問うならそのような
行為を許してしまった自分自身にも咎はある。処分は事態を見極めてからでも遅くはない
はずだ。そしてイゾルデはエレベーターホールでのルネに「成長」を感じた。自分は彼女
を信じる。彼女は馬鹿な真似は、しない。
 イゾルデは改めてソファに腰を下ろした。
 しかし、そうなると今度は目的と動機が気になる。アンリエットの真似をして、船から
降ろすまいと監禁することが目的か。溜息を吐くとイゾルデは首を振った。考えられない。
ルネは「自分一人で大丈夫」と言った。あの時の彼女の表情には、確たる信念が見えた。
 だったら、これは監禁ではないのだろうか。確かにエレベーターはゆっくりとだが、
降下している。ドア上部の現在階表示盤は、A3階からA2階への移動を示した。
 このままB4階、学園正門前まで連れて行く気だろうか。それこそ操作権を奪った意味が
見出せない。他の階で降ろすにしても、階段を使えばエントランスには辿り着ける。
 やはり監禁が目的としか考えられなかった。
 その直後―――天井の右隅に設置されたアナログのチャイムが「ちん」とドア開放の
合図を告げた。現在階表示盤の針がA1階で停止する。
「馬鹿な……」
 普段の威厳すら忘れて呻いた。
 いよいよルネの意図が読めない。目的は監禁ではないのか。しかし、A1階のホールは
右舷上層寮―――つまりサードクラスの宿舎に密接している。ファーストのルネが、何か
仕掛けを施せるような場所ではない。
 彼女のミスだろうか。だとしたら間が抜けすぎている。PSに通報する気こそ無かったが、
ルネの悪戯に付き合う義理もない。さっさと降りて、階段でエントランスに向かうだけだ。
 ソファから立ち上がる。灰褐色の扉がドアレールを滑った。
 息を飲む。イゾルデのガーネットの瞳が大きく見開かれた。裡ポケットの疼きが激しく
自己主張する―――強く胸を押さえつけた。

101 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:16 ID:???

 開放されたドアの先には、ニコル・ジラルドが立っていた。
 
「あ……イズー?」
 彼女もまた、前髪の隙間から覗くラピスラズリの眼を丸くして驚いた。
「ど、どうしてあんたが……」
 ニコルの息が荒い。
 腰まで伸びたキャラメルブラウンの髪は、いつもの「無造作」の域をこえて、嵐の渦中
を通過でもしたかのように荒れ狂っている。頬からは滲み出た汗が滴り落ち、胸は酸素を
求めて上下していた。―――激しい運動を直前までしていたのは明らかだ。
 廊下を疾走でもしたのだろう。運動不足を自らのアイデンティティにしているような女
が、何を急いでいるのか。
 呆然と見つめ合う二人―――先に冷静を取り戻したのはニコルの方だった。
「……良かった。間に合った」
 心から安堵の表情をイゾルデに見せつけた。胸の焼き付きが止まらない。その間にも
ニコルは表情を一変させて引き締めると、エレベーターに足を踏み入れ、突き立てた
人差し指でイゾルデの胸を軽く押した。
「イズー。あんた、どういうつもりだよ。あたしに何も言わないで―――」
 ニコルの背後でドアが閉まり始めた。ドアの隙間からは、パネルを操作する見慣れた
メイドの姿―――上目遣いでイゾルデに目配せすると、小さく舌を出す。
 自分が置かれた状況を思い出した。
「ドアを閉めさせるな!」
「あ?」
 遅かった。ニコルを押しのけて出入り口に取り付いたときには、灰褐色のドアはまるで
元から一枚の壁だったかのようにぴたりと閉じてしまっていた。
 操作パネルに指を這わせる。やはり反応はない。なんて油断だ。完全に虚をつかれた。
A1階でのドアの開放―――ニコルをこの密室に誘き寄せることが目的だったのか。自分が
驚愕することまで計算に入れて。
 ルネの頭で思い付くはずがない。だがドアが閉まる一瞬、確認できたメイドの姿―――
イライザ・ランカスター。彼女の企みか。
「お、おい。なんだよ。急にどうしたのさ」
 自分の状態をまったく覚っていないニコルは、イゾルデの不信な挙動に戸惑っている。
 イゾルデは振り返ると、ニコルの両肩を掴んだ。ルネほどではないが小さな肩幅だ。
「ランカスターに来いと言われたのか」
「あ? あ、ああ。イライザが、このエレベーターを使えばエントランスに早く着くって
言うから―――」
「あいつに何を吹き込まれた!」
「何をって……イライザは別に何もしちゃいないよ。あたしは午前中、あんたを探し回っ
ていたんだ。船中を走っても見つけられなくて、途方に暮れてカナエの部屋に戻ったら、
イライザがエントランスに急げばまだ追い付くって言うから」

102 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:17 ID:???

 ニコルは身を捩ってイゾルデの拘束から逃れようとする。
「……それで、このエレベーターに案内されたわけか」
 ニコルには今日下船する旨は伝えていなかった。下船の日取りを決めたのも一昨日だ。
占拠騒動でニコルの情報網は半分死んでいた。口の軽いルネか、ランカスターが告げでも
しない限り彼女がイゾルデの下船の日を知る術はない。
 ランカスターに刺した釘―――まったく意味を為していなかった。あの女は確かに気が
利くが、利き過ぎて余計なことばかりしている。メイドに落ちぶれる前の方が、はるかに
かわいげがあった。
 イゾルデはニコルを解放してやると、ソファに腰を深く埋めた。
 ニコルに自分たちが監禁状態にあることを告げる。現在階表示盤の針はA1階で止まった
まま、今やぴくりとも動かない。ニコルを引き入れた今、稼働させる必要が無いのだ。
「んな馬鹿な」ニコルは笑った。イゾルデの顔色を見て「……冗談だろ?」と不安げに
付け加えた。ニコルは彼女が冗談も嘘も言わないことを知っている。
「……マジ?」
 イゾルデは無言でニコルを睨み付けるだけだ。
「何だよそれ! あたし、カナエの部屋から抜け出して来たんだぜ。あいつが説得に来る
前に、部屋に戻らないと―――いや、そんなことより、んな長いこと部屋を空けていたら
ビビって逃げ出したって思われちまうよ。あたしが言い出しっぺなのに!」
 胸の焼け付き―――急激な勢いで冷却された。
「あのごっこ遊びのことを言っているのか」
 優雅な動作で足を組むと、顎を引き、口を強く結ぶ。
「お前に天京院の卒業を引き留める権利はない。テロの真似事をしたいのなら、内輪で
やれ。あの騒動のお陰で生徒自治委員会や寮管理委員会の面目は丸潰れだ。迷惑という
ものを考えろ」
 むっとニコルは口を尖らせた。
「……迷惑をかけているのは重々承知さ。処分を喰らうことだって覚悟している」

103 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:18 ID:???

 覚悟―――お笑い草だった。彼女もルネと同じだ。見通しが甘すぎる。海の上で安全な
生活を送るには「秩序」が如何に重要か理解していない。
「それに、あたしがカナエの卒業に口出ししちゃいけないって言うのなら、あんただって
あたしに説教なんてする権利はないはずだろ。口うるさいのはヘレナだけで十分だ」 
「なら勝手にしろ」
 腕を組むと、イゾルデはそのまま黙り込んだ。
 一瞬だけ場を沈黙が支配した。だが、話が大幅にずれていることに気付いたニコルが、
慌ててソファに近づいた。「そうじゃないだろ」とイゾルデの足をゆする。
「なんで監禁なんてはめになっているんだよ!」
「私が知るものか」
「あたしはただあんたを追って―――ああ、そうだよ。大体それがいけないんだ。イズー、
あんた一体どういうつもりさ。今日、船を降りるなんてあたしは聞いてない」
 片眉を吊り上げて、イゾルデは嗤った。
「お前は天京院のことで忙しそうだったからな」
「そんなの関係あるもんか。あたしはあんただって―――」
 言い淀むニコルをじろりと睨め付けた。
「わざわざ天京院の部屋まで出向いて、お前に下船の旨を伝えろと? お前たちが勝手に
始めた立て籠もりに、私まで関われと言うのか。……冗談ではない。たかが船を降りる
程度のことで、余計な問題に首を突っ込んで自分を貶められるか」
 ニコルは俯くと、震えを抑えるかのように左の二の腕を掴んだ。
「……『たかが』なんて。そんな言い方やめてくれよ」
 咎める口調ではなかった。むしろ懇願の色が多分に含まれている。例えそれが真実でも、
聞きたくないから言わないでくれという懇願が。
 イゾルデはせせら笑う。
「だったら何だというんだ。撤回を求めるか? アンリエットが天京院にしたかのように、
今度はお前が私の言葉を否定してみるか」
「そんなつもりはないよ」
 ニコルは小さな肩を竦ませると中央の水槽を覗き込んだ。泳ぐというより水中を漂って
いるディスカスに「ちぇっ。お姫さまは今日は機嫌が悪いみたいだ」と話しかける。熱帯
魚の王様は口をぱくぱくさせて応えた。

104 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:19 ID:???

 ニコルは腰を下ろす場所を探したが、イゾルデは二人がけのソファの中央にどっかりと
座り込んだまま、彼女のためにスペースを空けるような素振りを見せないため、仕方なく
コーヒーテーブルを挟んで向かい合う形で、エレベーターのドアに背を預け、床に直接腰
を下ろした。膝を胸に抱きかかえる。
 なんて無防備ではしたない恰好をするのか。イゾルデは頭を振った。ファーストの制服
でそんな座り方をすれば、イゾルデの位置から下着が丸見えだ。少し考えれば分かるだろ
うに―――普段の彼女の素行が知れた。それとも、見せたところで惜しくもないと思って
いるのか。悪趣味な下着を見せられる方の立場にもなって欲しかった。
 注意するのも馬鹿らしくて、イゾルデは視線を天井に向けた。自分がどうしてこんなに
苛立っているのか、イゾルデ自身にも理解できない。
 ニコルのことを考えても不愉快になるだけだ。ニコルの馬鹿は今に始まったことでない
から、いったん思考から取り除いて、もっと優先すべき懸念―――現在の状況について頭
を使うことにする。
 腕時計で現在時刻を確認した。エレベーターに乗り込んでから三十分ほど経過している。
あと一時間もせず、イゾルデを港まで送る上陸用ランチが正門に到着してしまう。幸い
午前最後の便のため、午後の最速便――つまりアイーシャが乗るランチだ――が着くまで
二時間ほど余裕がある。暫くはエントランスにランチを待機させることはできた。「船内
をぶらぶらしてから行く」と伝えているから、連絡をせずとも一時間ほどは待ってくれる
だろう。だが、それが限界だ。リミットは今から約二時間―――それを過ぎたら、イゾルデ
の行方が知れないことに送迎の船員も気付く。PSに通報されたら、ルネの処分は確実だ。

105 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:20 ID:???

 ……さて、面白くない状況になってきた。
 馬鹿なニコルには「監禁された」と説明したが、実はその表現は正しくない。先にも言
った通り、緊急ボタンを押すだけで脱出はできるのだ。二時間まんじりと待っていても、
やはり救援は来る。―――だが、そのどちらの手段も学校側に事件を知らせることになっ
てしまう。ルネが船から追放されるような事態は、あまり面白くない。
 だんだんと、ランカスターが画策したゲームの意図が見えてきた。
 ルネを人質に取られた。ルネ・ロスチャイルドという枷がイゾルデの動きを制限し、
エレベーターを密室に仕立て上げたのだ。この愚かな枷は、イゾルデの判断で取り外しが
できる。自業自得だとルネを斬り捨てればさっさと船から降りられるが、そうはしない
ことをランカスターは読んでいる。その上、時間制限までついているのだから性質の悪い
ゲームだ。イゾルデが勝利を得るには、学校側にこの不祥事を関知させずに二時間以内に
エレベーターから脱出する必要がある。携帯電話を用いれば容易にクリアできるのだが、
生憎とポーラースターでの携帯電話の普及率は低い。イゾルデも持ち歩いてはいなかった。
ニコルが持っているという話も聞いたことがない。
 悔しい話だが勝率は低かった。エレベーターは閉塞感を感じさせないレイアウトに
なっているため、二時間程度なら簡単に時間を潰せるが、この事態を打開する鍵を見出す
にはあまりに狭すぎた。ゲームである以上必ず打開策はあるはずだし、ランカスターが
本気でルネを陥れる理由もない。イゾルデが勝つことを前提にトリックは仕掛けられてい
るはずなのだが―――現状は八方塞がりだ。
 ニコルを引き込んだ意図も読めない。……いや、理由なら分かる。イゾルデが嫌がっ
たり、戸惑ったりするのが面白くてたまらないのだ。
 ルネめ、とイゾルデは呻く。ニコル並の馬鹿だ。ニコルの次ぐらいに馬鹿だ。ルネの
目的は未だ分からないが、悪戯の協力を求めるにしても相手を選んで欲しかった。恐らく
彼女は人質にされていることすら気付いていない。
 本家馬鹿のニコルは熱帯魚観賞に飽きると、今度は部屋隅に設置された冷蔵庫から飲み
物を漁り始めた。冷蔵庫はコンソールテーブルの下に収納された薄型で、壁と同色のため
眼を凝らしでもしないと判別できない。いくら無駄な贅を愛するポーラースターとは言え、
エレベーターに冷蔵庫を仕込むなんて話は聞いたことがないから、これはランカスターか
ルネが持ち込んだのだろう。餓死させるのが目的ではないことだけは分かった。

106 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:21 ID:???

「イズーもなんか飲むか? アルコールはないけど」
「喉は渇いていない」
「そんなつれないこと言うなって」
 ニコルは二つのグラスに氷を入れると、予め四つ切りにされていたライムを指で絞った。
冷蔵庫からペリエを取り出し、栓を抜くと一気に注ぐ。手早くライム・ソーダーを作ると
「ほい」とイゾルデにグラスを差し出した。
 ライムはニコルの好物だ。彼女は甘酸っぱい味に目がない。あの時の、山イチゴのジェ
ラードもそうだった。
 グラスを受け取る。
「気楽なものだな」
 口を付けずに言った。
「自分の置かれている状況を理解しているのか」
「んー、でもこれってルネがやったことなんだろう? なら、そんなやばいことにはなら
ないと思うんだけどなぁ。あんたがいるんだから尚更だ。あたしはともかく、イズーに
迂闊な真似をするような奴じゃないよ、あいつは」
 ニコルは「Cin cin!」と叫んでグラスを打ち付けてきた。本日二度目の乾杯。嫌がる
イゾルデの抵抗も虚しく、杯は交わされ硝子音を鳴らす。
「……天京院の件はどうするんだ」
「あー、アレか」
 頬をかく。
「さっきはああ言ったけど……あたしは賑やかし要因というか、おまけというか。いや、
言い出しっぺなのは確かなんだけどどねー。でも、あたしがいないからってどうなるって
ワケでもないんだ。あれはカナエと杏里の問題さ。だから大丈夫だよ」
「無責任な奴だ」
「失礼な奴だな。信頼って言って欲しいね」
 イゾルデはふんと鼻を鳴らした。ソーダーを喉に流し込む。ぴくり、と眉を寄せた。
ライムの刺激が強すぎる。この馬鹿は昔から味覚のバランスが悪い奴だった。

107 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:21 ID:???

「それに、たまにはこういうのもあたしはアリだと思うけどな。ほら、今までイズーと
こういう時間、なかなか取れなかったろう」
 目を細める。ゲームに気付いていないとは言え、さすがに捨て置けない言葉だった。
「呑気にも程がある。私の下船予定時刻が迫っているんだぞ。スケジュールが狂えば、
私だけではなく多くの者が迷惑を被る」
「良いじゃん。そんな急いで降りることはないって。二日ぐらいずらしちゃえよ」
「無理だ。スケジュールがあると言ったろう。それに部屋はもう引き払った」
「あたしの部屋に泊まっていいぜ。あたしのベッドはキングサイズだから、二人で寝ても
余裕なんだ」
 イゾルデの顔を覗き込むように、ニコルは床にしゃがんだ。
「……まぁちょっと掃除が必要だけどな」
 ニコルの部屋―――そう言えばイゾルデは彼女の私室を訪ねたことがなかった。ニコル
に限らず、あまり他人の部屋に招かれた経験がない。イゾルデもまた、ルネ以外の友人を
私室に招くことは少なかった。興味がないと言えば嘘になるが……。
「アンリエットが入り浸っているような部屋だからな。泊まる気にはなれん」
 ソーダーが気管に入ったのか、ニコルは激しくむせた。
「な、何だよそれ。変な想像するなよ」
「変なことをしているのか?」
「そ、それは……」
 語尾を濁らすニコルを見て、イゾルデは声を出さずに笑った。
 昔では考えられない光景だ。あの頃は年下のニコルにいつもやり込められていた。どんな
反逆もしれっと回避されてしまった。当時の自分は愚直なまでに単純だったから、さぞ扱い
やすかったことだろう。ことある事にニコルに突っかかっていたあの日々が、懐かしくて
仕方がなかった。黄金色の過去はイゾルデの心の棘を徐々に取り払ってゆく。
 幼なじみの控えめな笑顔を見て、ニコルもまた口元を綻ばせた。
「ちょっとは機嫌治してくれたかい。良かった良かった。口元をへの字にして、こーんな
顔して黙り込んでいるんだから、気まずいったらありゃしなかったよ」
「……別に私は怒ってなどいない」
 ただニコルの馬鹿さ加減に憤っていただけだ。―――いや、そうか。ならば、怒って
いたということになる。イゾルデは苦笑した。メディチに染まった自分の中には、もはや
神秘など存在せず、全ては理解の下にあると思っていたが、未だに自覚できない感情があ
ったのか。

108 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:22 ID:???

 ニコルへの苛立ち。不機嫌の理由。説明を求められても、言葉にするのは難しかった。
占拠事件―――天京院やニコルにはああ言ったが、イゾルデの本心は「好きにしろ」だ。
批難する口実は無限に用意できるが、それを駆使する理由が無かった。愉快だとすら思っ
ていた。連中を見ていると「面白い」のは認める。芸術は常に彼女たちを愛した。
 だが、自らもまた卒業する立場だというのに、健気に天京院を気を使うアイーシャ――
―そんな彼女の優しさを疎んじる天才や、勝手に占拠事件なんて始めた癖に、いざイゾルデ
が船を降りる段になって「なんで教えてくれなかったんだ」と言いがかりをつけるニコル
を見ていると、無性に心がざわついた。苛立ちが募った。
 アンリエットは勝手だ。天京院も勝手だ。……ニコルも勝手だ。
「イズーは勝手だ」
「……なんだと?」
 お前にだけ言われたくない。つい言葉を荒げる。
「いいや、勝手だね」
 ニコルも退かない。空になったグラスを強く握り締めた。
「何でも自分一人で決めちまう。今回のことだってそうだ。なんで、そんな逃げるように
船から降りるんだい。あたしはあんたに、お別れすらしていなかったんだぜ」
 逃げるようにだって? 馬鹿げている。
「手続きは正統なものだったし、私の下船は入学した頃からの決定事項だ。教師陣やメイド
達にもゆっくりと時間を取って礼を尽くした。ルネも前々から知っている。……お前が、
天京院の騒動にかまけて関知していなかっただけだ」
「だから、それって……」
 ニコルは顎を引くと、前髪で表情を隠した。
「あたしから逃げてるってことじゃないか」
 そうなのか? 不意を討たれたイゾルデは咄嗟に自問する。反論すべき場所だったが、
喉が渇いて言葉が出てこない。ライムソーダーを煽って、粟立つ感情を鎮めた。
 この私が逃げるなど、あり得ない。
 言葉に詰まったイゾルデを見て、ニコルは図星と判断したようだ。カッツォ、と忌々
しげに呻くと、立ち上がって冷蔵庫を再び物色し始めた。アルコールはないのかよ、と
不平をこぼしながら、残ったペリエをらっぱ飲みする。
「なあイズー。こんな……こんな中途半端な状態で、船を降りちまうのかよ。そんなの、
あたしはイヤだぜ。さっきの話、冗談でなくてさ。本気で考えてくれよ。一日ぐらい延
ばしたって……もっとちゃんとした、お別れをしたいんだ」
「無理だ」
 にべもなく断った。

109 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:22 ID:???

 ニコルは勝手に彼女が逃げてると決め付け、納得したみたいだが、イゾルデ自身はどう
も釈然としない。彼女の自我すらも凍えさせる鉄血の理性が、確かにこの幼なじみを避け
ようとしていたと認めていたが「逃げた」などと言われると反感を覚える。
 大体、中途半端とは何だ。どうすれば十全な別れになどなるのか。
「明後日にはプラハで人と会う約束をしている。今日中に発たなくては間に合わない。
スケジュールは崩せない。崩すつもりもない。私の下船は予定されていたことだ」
「そこをなんとか!」
「無理だ」
「どうしても?」
「無理だ」
 ニコルの表情が一変した。
「……そうかよ」
 空き壜をコンソールテーブルに置くと、ニコルは俯いたまま黙り込んだ。何事かを考え
ていたかのようだが、十秒と経たずに顔を上げる。イゾルデに向き合った。ソファに座っ
ている彼女を睥睨する恰好になった。
 自分に臆すること理由はない―――メディチの後継者もまた、怜悧な瞳で睨み上げる。
眼光の鋭さでイゾルデに勝てる者などいないが、前髪から覗くニコルの碧眼にも確たる
決心が見えた。
 エレベーターが緊張で満たされてゆく。沈黙は苦痛ではないが二人に相応しくもない。
なぜ、こんなことになっているのか。イゾルデには理由も原因も分からない。ニコルの
言い分によれば自分の所為になるが、船を降りるのは予め決定していたことだ。天京院
のように唐突に言葉を翻したわけではない。批難される謂われはなかった。
「……だったら、もうあんたには頼まない」
 ニコルは緩慢な動作でスカートのポケットに右手を突っ込んだ。何を取り出したのか、
抜かれた右手はイゾルデの目線に持ち上げられ、強く握った拳はゆっくりと解かれる。
 五指が開いた。ニコルの手の平―――クロム色が鮮やかなキーが視界に飛び込んだ。
 四列に渡って穿たれた複雑なピンの紋様は、まるで西洋剣の血抜きの溝のようで、中世
の刑吏が用いた処刑刀(エクスキューショナーズソード)を彷彿させた。
 このタイプの電子キーは見覚えがある。一時間ほどに前に、エレベーターホールでルネ
がやはりポケットから取り出し、パネル下部の鍵穴に差し込んだ―――

110 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:23 ID:???

「……ニコル、貴様」
 ゲームクリアに繋がる、文字通りの「鍵」―――ニコル・ジラルドが握っていた。
 フィレンツェの下町っ子は踵を返すとドア脇の操作パネルに歩み寄る。カバーをスライド
させ、剥き出された鍵穴に電子キーを差し込むと―――捻らずに引き抜いた。
「やっぱ、これがそうなのかい」
 ニコルは指で弾くと、空中でキャッチした。
「あんたが今日、船を降りるってルネから聞いたときに渡されたんだ。『この鍵があれば、
イズーはいなくならないよ』って。あの時は何のことかまったく分からなかったけど……
まさかと思ったら、案の定だ」
 なあ、イズー。淡々とした口調で呼びかけてきた。感情を押し殺しているが故に、より
悲痛に響くニコルの声。イゾルデはいつも通り「なんだ」と憮然と応える。
「これってまったく面白くない話だよな。だってルネはこの鍵を必要ないって言ったんだ。
あいつは……あいつはあんなにイゾルデ・メディチに惚れ込んでいるのに、この鍵を使おう
ともしなかったんだ。どうしようもなくワガママで、自分の好きなことしかしようとしな
いあいつがだぜ? あたしは普段から、あいつのことをガキだガキだって馬鹿にしていた
けど……何だよ。こういうのぜんっぜん面白くないよな」
 ニコルは電子キーを握り締めると、胸に押し付けた。
「―――あたしはこの鍵をルネみたいに手放せない」
「ニコル……」
 イゾルデは悟った。ルネ・ロスチャイルドが意図したゲームの目的。彼女は如何なる理由
で、こんな迷惑極まりない密室ゲームを企てたのか。全て悟った。当惑するはずだ。理解が
及ばないはずだ。クリアの手段が思い付かないはずだ。
 ―――なんて事はない。このゲームの主役はニコル・ジラルドだったのだから。

111 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:24 ID:???

 ランカスターがルネを人質にとったのは、イゾルデに余計なことをさせないためだ。この
ゲームはニコルがクリアするために仕掛けられている。豪華王の後継者はニコルを釣る餌に
過ぎなかったというわけだ。
 ルネやランカスターが望んでいる展開。恐らくだが、ニコルが自発的に鍵を渡すこと。
イゾルデの卒業を見送る、イゾルデの下船に納得する。そう覚悟したとき扉は開かれる。
 少なくともランカスターは、イゾルデが力ずくでニコルから鍵を奪うような無様な真似
をしないと見抜いている。暴力で解決するのは矜持が許さない。ニコルを床に押し付けて、
彼女の手から鍵をもぎ取るなんて考えたくもなかった。そんなことできるはずがない。
 イゾルデは怜悧だが計算高くはなかった。自分の中で燦然と輝くルールを曲げてまで、
目的を遂行しようとする「生き汚さ」に欠けている。意固地過ぎて損をするタイプだ。
 自覚はしていたが、まさかこうま的確に突っ込まれるとは―――さすがはランカスター
と言わざるを得ない。こんな下らない茶番で、イゾルデの自由を奪える女はポーラースタ
ー広しと言え彼女ぐらいだ。やはりメイドの身で終わらせていい女ではない。
 だが、称賛で済むと思うなよ。イゾルデは奥歯を噛み締めた。「大切な友人の気持ちに
決着をつけるため」なんて綺麗な言葉を使ったところで、彼女たちがニコルを玩具にして
いる事実は変わらない。全ての矛盾は解かれるべきなのか。あらゆる諍いは解決されるべ
きなのか。イゾルデはそうは思わない。人の関係は方程式ではないのだから。
 自分があのまま船を降りていれば、ニコルに恨まれたかもしれない。だがその代わりに、
ニコルを痛めることもなかった。いま彼女は自分のエゴを痛感して自責の海に漂っている。
身を炙られる酸の如き海だ。俯いたニコルの表情は沈みきっていて、怒りよりも悲哀を多
く感じさせた。―――こんな下らないゲームなど用意しなければ、彼女が斯くまで傷む
ことはなかったはずだ。
 イゾルデはソファから立ち上がった。
「悪いが私を予定を違える気はない。船は今日、必ず降りる」
「イズー……」
「だが、お前が私に鍵を渡す必要もない」
「え?」

112 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:27 ID:???

 ニコルは咄嗟に顔を上げる。イゾルデは見た。ラピスラズリの瞳が、滲んだ涙で輝いて
いる。胸が疼いた。彼女を泣かした者には、相応の報いが必要だ。
「こうすれば良いだけだ」
 ドアの脇まで歩み寄ると、躊躇うことなく緊急ボタンを押し込んだ。人質のルネ―――
今やその価値は失った。自分は天京院のように甘くない。悪ふざけにも限度がある。
 だが、ボタンを何度押し込んでもブザーは鳴らず、エレベーターも沈黙を守ったままだ。
管理部と繋がるはずのスピーカーも黙り込んでいる。
「馬鹿な!」
 イゾルデの読みは外れた。このエレベーターは完全に外界と遮断されている。ランカスタ
ーは、ルネが人質の効力を失うことまで読んでいたのか。だとしても、なんて危険な真似を
するのか。外界との連絡手段が無ければ、不足の事態に対処のしようがない。
 もはや冗談で済む問題ではない。イゾルデは腰から短剣を抜き放った。ポンメル(柄頭)
に紋章入りの装飾があしらわれた、儀礼用のダガーだ。イゾルデはこの短剣を、学園側から
の特例許可を得て携帯していた。殺傷能力を追求した武器ではないため使い勝手は悪いが、
刃物であるという事実に変わりはない。ドアの隙間に切っ先を刺し込んだ。
「お、おい。何してるんだよ」
 ニコルは戸惑っている。当然だ。ダガーの刀光は無情で、嫌が応にも緊張を引き立てた。
「こじ開けて防犯装置を作動させる」
 それまでオフにしていたら、天井を破って這い出ればいい。
「ゲームの時間は終わりだ」
「そ、そこまで……」
 背後でニコルが何事かを呟いたが無視した。ブレードを上下させてドアのストッパーを
探すが手応えはない。エレベーターの構造などイゾルデは知るはずがないのだから、動き
もいまいち要領を得なかった。
 こういう人に自慢できない工作技術はニコルに分がある。
「ニコル、お前も―――」
「……ああ、そうかよ。よーく分かったよ」
 手伝え。そう言いかけて言葉を飲んだ。背中に注がれる視線に、並ならぬ熱を感じた。
「イズー。あんたはそこまでして、船を降りたいってワケだ。ナイフを突き立てて、エレ
ベーターぶっ壊して、何がなんでも出ていきたいってワケだ」
 ドアの隙間から短剣を引き抜くと、ニコルと向き合った。

113 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:28 ID:???

「……なぜ、そうなる」
 抜き身の刃を提げているのは危険だから、鞘に納めた。
 ニコルの瞳―――隠しようのない怒りと屈辱で支配されていた。裡ポケットの疼きが
再燃する。そんな眼で私を視るのか。ニコルの手から鍵を奪うような真似はしたくないか
らこそ、三年間一度として鞘から抜かれることのなかったメディチの短剣を構えたのに。
「私を責めるのか、ニコル」
「そうじゃない。あたしはただ!」
 鍵を握り締めたニコルの拳。コーヒーテーブルを叩いた。水槽の水面が揺れる。
「時間が欲しいんだ。あんたにまだ、船を降りて欲しくないんだ……」
 少女は膝を折ると、その場にずるずると崩れ落ちた。背を丸め膝を抱える姿はまるで
胎児のようだ。ゲームの主人公はニコル―――改めて、ルールの巧妙さに歯噛みする。
ニコルはこの監禁の責任は自分にあると錯覚している。自分が、イゾルデを閉じ込めて
いるのだ、と。誤解を正すのは難しい。ニコルはただ巻き込まれただけと理解させるため
にも、自力で脱出すべきなのだが―――彼女を放置して自分一人立ち去っても、何の解決
にもなりはしない。イゾルデは無表情にニコルを見下ろしたまま、言葉を紡いだ。
「……ニコル。私は理解できない。天京院の件にしたってそうだ。私たちの卒業は分かり
切っていたことだ。ここはネバーランドなどではなく、三年制の学園だ。お前もやがては
船を降りる日が来る。来年になれば、アンリエット達が―――」
「言うな!」
 イゾルデは肩を震わせた。それほどまでにニコルの言葉は激しかった。一度として、
聞いた覚えがないほどに。
「頼むから、それ以上は言わないでくれよ」

114 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:28 ID:???

「……」
 返す言葉もない。イゾルデは無言でソファに座った。
 腕時計で時刻を確認する。正午を迎えていた。ランチはもう到着している。あと一時間
もすれば、船員はイゾルデと連絡が取れないことに気付く。ルネが貸し切っているエレベ
ーターが真っ先に疑われるだろう。
 だが、緊急ボタンすらも機能停止させていたことを考えるとタイムリミットについても
手は打たれているかもしれない。ニコルが鍵を渡すまで一週間でも一ヶ月でも閉じ込めて
おくつもりか。まさか、そんなのは狂気の沙汰だ。
 落ち着け、と言い聞かす。自分が囚われてから、まだ一時間程度しか経過していない。
ゲームのことは当面、忘れるべきだ。それより優先して考えることがある。
「……ニコル、これは質問だが」
 顔を伏せたまま反応しないので、言葉を続けた。
「私を船に残して、どうする」
 こういう質問を平気で口にできる自分は、寂しい人間なのだろう。が、純粋な疑問で
あることは確かだ。船に残ったところで何が変わる。
「―――イズー、あんたは本当に、何も感じないのかよ」
 ニコルは顔を上げようとしてくれない。
「あんたが船を降りちまったら……あたし達は、もう……」
「……」
 彼女の言わんとしていることは、分かる。
 自分はルネのように鍵を手放すことができない―――ニコルはそう言ったが、果たして
彼女と同じ状況に置かれた場合、ルネは同じように鍵を渡すことができただろうか。納得
してイゾルデを見送ることができただろうか。
 ロスチャイルドとメディチの付き合いは十年後も二十年後も続く。ルネとイゾルデの縁
が切れることはない。―――だがニコルの場合は違った。
 ジラルド家は非合法事業から手を引いたとは言え、シチリア島から流れた狭義のマフィア
だ。対する再興メディチ家の頭首、つまりイゾルデの父は検事から上院議員へとイタリア
政界に食い込み、将来的には首相の座を狙っている政治家だ。ヨーロッパに蔓延る犯罪組
織と徹底抗戦する意思を、十年前から変わらず掲げ続けている。イゾルデも含め過去数十
度テロや暗殺の恐怖に脅かされているが、マフィア連中に対する憎悪が衰えることはない。
 イゾルデもまた法学に関わる身として、いずれヨーロッパを蝕む幼児ポルノ産業を壊滅
させたいという志があった。手堅い資金源だった麻薬ビジネスが崩壊しかけている現在、
ユーロ・マフィアは少年少女を食い物にした幼児ポルノ産業に自らの生命線を委ねている。
 マフィアの倫理観や名誉意識は半世紀前、ラッキー・ルチアーノがシチリアに戻ったと
きに消滅してしまった。彼等を犯罪に走らせる理由はたった一つ。カネ(ソルディ)だ。
 マフィアはイタリアの歴史だ。だが、同時にイタリアを腐らせた癌でもあった。メディ
チの再生(ルネサンス)が、イタリア政界から闇を駆逐する。ジュリアーノから光を奪っ
た連中を、イゾルデは決して許さない。
 ニコルはマフィアの娘だ。どんなに父を唾棄しようとも、受け継いだ血を拒むことは
できない。そして政治家に高潔さを求める大衆は、珈琲の染み程度の汚れを排斥の餌に
する。下船してメディチの道を歩み始めれば、イゾルデとニコルは背中を向け合うしか
ないのだ。ルネとは事情が違う。
 船を降りれば、もうニコルとは会えない。

115 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:29 ID:???

「……イズー、あたしは後悔しているんだ」
 沈黙したまま何も言えないイゾルデとは対極に、ニコルは喉から溢れ出す言葉を制御
できないでいる。
「あたし、あんたと仲直りしてから今まで、離れ離れだった時間を埋め合わせるような
こと、何一つしてない。あんたとやりたくてできなかったこと、まだまだたくさんあるの
に……そう言うの全部先送りにして、結局今日を迎えちまった。悪いのはあたしだって
分かっているよ。ワガママだって言うのも分かっているよ。それでも、あたしはあんたに
いなくなって欲しくないんだ。このまま閉じ込め続けたら、もしかしたらイズーが卒業
することもないって……いつまでも一緒にいられるかもしれないって。そんなこと考えち
まうんだよ。―――はは、馬鹿だよねぇ」
 幼なじみの肩が、小刻みに震え始めた。表情は伏せられ、嗚咽を漏らさぬように、
「ニコル……」
 やはり彼女は馬鹿だ。どうしようもない大馬鹿だ。
 自分が下船した後のニコルとの関係。イゾルデは今日までその問題を考えないように
していた。問題その物から目を背けていた。「頭を捻り、心を悩ませたところで解決する
ものではない」と冷徹に割り切って思考を放棄してしまった。下船の日取りを告げず、
ニコルとの別れなどさして重要ではないと言いたげに振る舞っていたのも、問題の矮小化
を計ったからかもしれない。逃げたと非難されるのも道理だ。だが、それが一番賢い対処
法だとイゾルデは信じている。ニコルのように真っ向から悩み抜くのはあまりに愚かだ。
 だが、そう言う愚直さは嫌いではない。実にニコルらしいではないか。
「……イズー、あたしは知っているんだからね」
 ファーストの少女はようやく顔を上げた。瞳は前髪で隠れて見えないが、頬に涙の跡が
走っている。
「何をだ?」
 平素を装って問い返した。
「四月のアイリス・ステークスのことさ」

116 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:30 ID:???

 ぴくり、とイゾルデが動きを止めた。
 アイリス・ステークス―――牝の三歳馬のみによって競われるダービーで、ポーラース
ター・クラシック三冠の一つを担っている。船上で行われる競馬ではもっと規模が大きく、
当日は生徒の他に(もちろん女性だけだが)卒業生や生徒の保護者、ポーラースター財団
と縁のある者などが入場する一大イベントだ。世界の競馬愛好家のためにテレビ中継も
行われる。乙女の箱庭であり、俗世から隔離されたナネリー(女子修道院)でもあるポー
ラースター学園が唯一外部に門戸を開くイベントのため、その注目度は非情に高く、小国
の国家予算レベルの金が動くと言われている。出場馬の馬主になることは至上のステータス
で、今年行われたアイリス・ステークスの出場馬のうち三頭は学園の生徒が馬主だった。
イゾルデはその中の一人だ。
「さて……」極力、冷静を気取る。「あのダービーがどうした」
「あたしが『奇跡』なんて、そんな安っぽい理由で納得するような女じゃないってことは
知ってるだろ。あの時、セカンドのカステヘルミや乗馬クラブのシモーネがあたしに負け
たのは、あんたが裏で動いたからだ。イズーが握り潰してくれたから……」
「……知らんな」
 二ヶ月前に行われたアイリス・ステークスは、一年を通してH.B.Pでもっとも華やかで、
もっとも大掛かり祭典だったが、その騒ぎに乗じて陰惨な計画が多く企てられもした。
 地下カジノでのニコルの存在を快く思わない女生徒が、出来レースにニコルを引っかけ
て、破産―――退学させようとしたのも、そんな数ある事件のうちの一つだ。イゾルデが
察知しなければ、ニコルはまんまと罠にはまっていた。
 だが、あの事件の真相を知るものは船内でも極一部で、ニコルには「強運で勝った」と
思わせるように仕掛けたはずだ。……少し、彼女の勘を侮りすぎていたのかもしれない。
「……あのダービーには、財団の利権を掠め取ろうと企むジェノヴェーゼ・ファミリーが
絡んでいた。アメリカの移民マフィアは私が最も唾棄する存在だったし、『外』での大人
どもの争いを船に持ち込むような無粋な真似も、私は大ッ嫌いだ。だから潰した。お前の
ことは関係ない」
 イゾルデは淡々と語った。
「へー。だったらその二週間後に、アンリエットに振られたサードのアデリーヌが、うさ
晴らしのために、サロンの不良仲間と一緒にあたしをレイプしようとした件も? なんで
か知らないけど、実行されなかったんだよねぇ」

117 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:31 ID:???

「……」
「三月には、親父と敵対関係にあったカモッラのクルーが自主的に船を降りたよな。五月
にはあたしにぶん殴られたことを根に持って、PSに地下カジノのことをチクろうとした
アマンダが自主退学している。―――全部、あたしが関係していることなのに、全部あたし
が知らないうちに解決していた。これってどういうことなんだい」
「……」 
 黙り込むしなかった。どれもニコルに気取られぬよう、闇から闇へと屠ったはずだった。
入学してから一年も経たないルーキーには絶対に知る術がない方法で。
 イゾルデが露骨に敵を多く作るタイプなら、ニコルは知らぬ間に敵を生んでしまうタイ
プだ。前者はより激しい闘争に身を置くことになるが、陰湿さでは後者が勝る。ニコルの
無邪気さを疎ましいと感じてしまうような、陰に親しむ女はポーラースターにも多い。
 そういう卑屈な連中がイゾルデは許せない。だから潰した。それだけだ。自分の卒業
とは何の関わりもない。
「分からないのかよ、イズー」
 まったく分からない。
「……あたしはあんたに、世話になってばかりで―――あたしからあんたには何一つして
やれてないってことだよ! このままあんたが船を降りちまったら、ニコル・ジラルドは
借りを返さない女に成り下がるんだ!」
「そんなこと……」
 余りにどうでもいい。だが、イゾルデもまた借りたものは返さねば気が済まない性質
だから、ニコルの言い分も理解できなくはなかった。
「なあイズー!」
 ニコルは立ち上がると、ソファに詰め寄った。
「ジュリアーノの件だってそうだろ。あたしは、あんなにあんたを傷付けたのに……まだ
何の償いもできちゃいないんだよ。イズーはすました顔してさぁ、大人ぶっていれは満足
かもしれないけど―――あたしはイヤなんだ。あたしだって、あんたのために力になれる
ってことを証明したいんだ」
 もう何度胸裏で繰り返したか分からないが、それでも呟いてしまう。
 こいつは馬鹿だ。
「だから船を降りるな、と言うのか」
「……はん、おかしいよな? 笑ってもいいんだぜ。惨めな奴だって蔑んでくれよ。借り
を返したいなんて偉そうなこと言いいながら、あんたを閉じ込めるなんて矛盾だよな。
足を引っ張ってばっかで……笑って見送りもできないで……何なんだよ、あたしは」
 音もなく立ち上がった。優雅な動作で右手から手袋を外すと、ニコルに差し伸べる。
―――そのまま胸ぐらを掴み上げた。幼なじみの顔が痛みに歪んだ。構うものかと力に
任せて引き上げる。ニコルの矮躯。身長が足りず爪先立ちになる。
 互いの吐息が触れ合う距離まで顔を近付けた。
「いつまでも勝手なことばかり言っているなよ」
「い、イズー……?」
 ソファに投げ付けた。スプリングが沈み、ニコルの小さな身体が何度か跳ねる。クッシ
ョンに背を預けたまま、姿勢を直すことも忘れて呆然とイゾルデを見上げた。
 彼女の視線は無視して、冷蔵庫からガラス製のティーポットを取り出す。中味はタージ
リンティーのようだが、クリームダウンしているお陰で鮮やかな黄金色は失われ、白く
濁っていた。味は変わらないが見目が美しくないので、ミルクを足して誤魔化す。アイス
ミルクティーにしてしまえば、色など気にならない。 
 グラスの一つをニコルに受け取らせると、渇いた喉を潤した。
 一息をついてから、ようやく口を開く。いい加減この馬鹿に喋らせ続けるのも飽きた。
ここからは反撃のターンだ。自分勝手なのはどっちか思い知らせてやる。

118 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:32 ID:???

「―――ニコル、私と一緒に船を降りろ」
 二時間前、ランカスターに放った言葉を繰り返した。発言は同じでも、意味するものは
あまりに違う。ニコルの碧眼に動揺が走った。予想外の言葉に戸惑いを隠せないようだ。
「もしお前の望みが貸し借りをイーブンにすることならば、それが道理だろう。なぜ私が
スケジュールを崩してまで船に残らねばならない? お前が私と一緒に来い」
「そんなこと……」幼なじみの擦れ声が耳に痛い。「出来るわけないだろ」
「なぜだ? メディチの力なら、お前からジラルドという性を抹消できる。お前が何でも
ない、ただの小娘になれば私との関係が騒がれることもあるまいよ」
「そんなことになったら、親父が絶対に許さない。あんたを殺そうとするに決まってる」
 鼻を鳴らす。「だから何だ?」とせせら笑った。
「私を誰だと思っている? メディチ上院議員の一人娘だぞ。お前は知らんだろうが、私
が入学した時、学園正門でシカーリの先輩が唐突に殴りかかってきた。まったく面識の
ないローマの女が、だ。欧州暗黒社会でメディチの名は最も忌々しく響く。今更、私の命
を狙う組織が一つ増えたところで何も変わりはしない」
 ニコルは黙り込んでしまった。別に構いはしない。返事など聞くまでもないからだ。
 自分は意地の悪いことをしている。ニコルを最も苦しめる誘いをしてしまった。大人げ
ないと自覚していたが、芽生えた復讐心が自制を許さない。アンリエットを選びながら、
自分にも未練を引き摺るなどあまりに都合が良すぎるではないか。あの頃とは違うのだ。
いつまでもニコルに振り回されているイゾルデ・メディチではない。
「ニコル」いつになく厳しい声音。「自分で決めろ」
 慈しむべき後輩であり、友情を誓った幼なじみであり、また自分に未知の世界を教えて
くれた先導者でもある少女の唇が、躊躇いに震えた。
「……イズー。あんた、強くなったよ。本当に、強くなった」
 昔はあんなにからかい甲斐があったのに、と呟く。
 イゾルデは含み笑いを漏らした。
「お前は弱くなったな、ニコル。あの頃は飢えた狼(ルーポ)のような鋭さがあった。
未知へと挑む貪欲な気概があった。だが今は、自分の世界を守るので精一杯だ」
「言ってくれるじゃないか……」
「原因ははっきりしている。私は今までも、これからも、独りだ。自己で完結するために
は強く在らねばならない。……だが、お前にはその必要がない」
 これからも独りだ。イゾルデはそう断言した。ニコルの返事は分かり切っている。
「―――あたしの負けだよ、イズー」

119 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:32 ID:???

 脆弱を甘受した少女は、電子キーを指で弾いた。クロム色の光芒が宙を舞う。弧を描い
て落下する密室の終焉をぱしりと右手で受け止める。
 こうなると理解していたものの、改めて現実を突き付けられると覚悟が揺らいだ。
 そんなにアンリエットが好きか―――怒鳴りたくなる衝動を押し殺す。ニコルが下船を
拒んだ理由は彼女だけではない。ハミルトンに始まる多くのクラスメイト―――そして
何より、このH.B.Pを愛しているから降りることができないのだ。
 イゾルデもまた、友を捨てるようなニコルは見たくなかった。だから、これで良い。
 エレベーターの脇に立つと、パネル下部の鍵穴に電子キーを差し込んだ。背中にニコル
の視線をひしひしと感じつつ、捻った。操作パネルに光が灯る。管理権が取り戻された。
エントランスへと繋がるB4階のボタンを押す。二時間振りにエレベーターは本来の役目を
思い出し、下降を始めた。
 ニコルは何も語ろうとしない。イゾルデもドアを見つめたまま振り返らない。まるで
このまま背を向けて、お別れだと言わんばかりに立ち尽くしている。
 最悪の門出だな、とイゾルデは自嘲する。ニコルが納得するよう一日か二日下船を遅ら
せて、その間にゆっくりと別れを惜しめば良かったのだ。ニコルに究極の選択を押し付け
て、自らのエゴを自ら否定させるよう仕向ける必要なんてなかった。彼女を想えば、妥協
すべきは自分の方だったのだ。
 だがイゾルデは自分を優先した。スケジュールの狂いを許せなかった。自らに課した
予定という名の枷を解けなかった。エゴイストはニコルかもしれないが、誰よりも自分を
愛し、自分だけに注意を向けるのがイゾルデ・メディチだ。厳格、怜悧、公正、無情――
―たいそうな評価だが、自分という器を保つため必死に足掻いているに過ぎない。
 アンリエットならどうしただろうか。きっと迷うこともなく、ニコルと残る道を選んだ
はずだ。逆にニコルが不安になって「もういい加減出て行け」と言われるようになるまで、
留まり続けるだろう。まったく愉快な奴だった。自分と対極の位置にありながら、愚直な
までの一途さだけは変わらない。だから自分は、あの女を芸術家と認めることができない
のだ。アンリエットもイゾルデ同様に芸術を庇護し、育む側の人間だった。
 目的階到着を告げるチャイムの音。一度だけ軽く床が揺れると、エレベーターのドアは
静かに開き、密室は消失した。
 エレベーターホールはドーム状で天井は緩やかな弧を描いている。薄暗い視界が利く
範囲で人気はない。天窓から自然光を取り入れているため照明は点灯しておらず、ホール
内は薄暗かった。
 ホール全体が天動説に基づく天球儀と見立てられているB4階のエレベーターホールで、
イゾルデたちが立つ第四番のエレベーターは「火星」の位置に当たる。床の中央に位置
するセピア色の地球を挟んで、イゾルデたちが乗るエレベーターから対象の位置に出入り
口が見えた。学園正門への道だ。陽光で溢れて外の様子は窺えない。
 イゾルデは前へと進みホールに出た。が、すぐに立ち止まる。
 背中を向けたまま口を開いた。
「―――アンリエットに捨てられたら、お前も全てを捨てて、私の下へ来い」
 ニコルの矮躯が震える。その気配が背中越しに伝わった。
「……待ってるぞ」
 脳裏によぎるヴェッキオ橋の情景。あの頃から変わらず、自分は待つ側だ。ニコルは
すっかり打たれ弱くなって、自分は黙って待ち続けるには力を得すぎたけれど、それでも
この関係だけは変えたくない。待つのは自分で、いつでも遅れてやってくるのがニコルだ。
 彼女の嗚咽なんて聞きたくなかったし、泣き顔を見るのもごめんだから、振り返らずに
進んだ。「Addio Nicolle―――」口の中で何度も呟きながら、エレベーターから、背中
に焼き付く視線から、離れていった。

120 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:33 ID:???


             * * * *
             
             

 イゾルデは、自分がニコルから逃げていたことを今では認めていた。
 何度も口にしたように、卒業は予め決定されていたことだ。イゾルデとニコルが卒業後
まで親交を保てないことは、二月の騒動以前から―――それこそニコルが入学した頃から
分かり切っていた。何のイレギュラーもない。全ては予定通り。
 そう、イゾルデは「こうなる」ことを知っていたのだ。「私が船を降りるのは当然だ」
と言うのなら、それに対するニコルの反発だって理解できないはずがない。認めたく無
かったが、イゾルデはこの別れを知っていた。知っていながら対処を考えず目を逸らした。
 つまり、逃げたのだ。
 許せよニコル、と胸裏で繰り返す。アンリエットが他人の裡側に自己を浸食させること
で自分を作り上げるなら、イゾルデは他人を突き放すことで外殻を保つ。ニコルは強い女
だが、部屋に閉じ籠もって、誰かが自分という扉をノックしてくれるのを待ってしまう
性質を持っている。積極性に欠けるというわけではない。世渡りだってうまいし、世故に
も長けている。ただ、心の奥底で誰かが迎えに来ることを待っているのだ。
 それは悪いことではなく、とてもいじらしい魅力だと思う。
 だが、イゾルデは他人のドアを叩くような真似はしない。あまりにも長い間、独りで
あり続けたため孤独を寂しいと思う気持ちが消えてしまった。だから、他人の孤独に寂寥
を見出せない。ニコルのドアを叩くことができず、彼女が待ちくたびれて飛び出すまで
逃げ続けてしまった。―――その結果がこれだ。
「……互いに待ちたがりなのだから、うまくいくはずもないな」
 自嘲をこぼしつつ、エレベーターからゲートを潜ってエントランスへ。
 H.B.Pはその巨大な全長ゆえ港に寄港できず、船内にランチ艇が発着する小さな港が
ある。それが学園正門―――左舷エントランスホールだ。天国へと昇る階段に見立てられ
たエントランスは、遙か高みに天蓋がそびえ、バロック様式の荘厳な装飾が施された柱が
何十本も突き立つ。さながら水に浮かぶ神殿で、上船の折には至高へと昇天する錯覚を
味わえるが、今日のように下船する時には追放者の哀哭が肩にのし掛かる。
 箱庭と外界とを結ぶエデンの門。イゾルデは楽園に背を向け、荒野を進む。 
 だが―――しかし、これはどういう事か。
「……何の冗談だ」
 そう呟かずにはいられない光景が、眼下に広がっていた。

121 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:34 ID:???


 潮の臭いが、鼻孔を刺激した。
 何千、何万という百合の葩(はなびら)がエントランスを舞台に舞い狂う。
 管弦楽の重厚な音の波が、空気を振動させながらイゾルデの登場を歓迎した。
 わっと歓声が上がる。踊り場を兼ねたテラスやキャットウォークにクルーや生徒―――
教師までもが押し掛け、ゲートに表れたイゾルデを仰いでいた。
 いつもの制服ではなく、藍色の礼装姿で全身をかためたポーラースター・セキュリティ
の一隊がエントランス最下層―――桟橋の手前で、整列している。ライフルを左手に控え
持ち姿は、まるで儀仗兵のようだ。
 見下ろす桟橋の先には、ランチが停泊していた。
 冷静を信条とするイゾルデも、これには戸惑いを隠せない。
 このお祭り騒ぎは、なんだ。卒業生の見送り? 馬鹿な。たった一人の生徒のために、
ポーラースターの儀仗隊まで動員するなんてあり得ない。三年間船に在籍したイゾルデ
だが、こんなイベントは初めて目にする。
「これは……」
「たかだかガキんちょが一人卒業するだけで何でこのあたしまで駆り出されなきゃいけ
ないんだっ。他の卒業生への示しっつーもんがつかないだろう」
 正装礼服に身を包んだ――しかしトレードマークのお下げはいつのままで――学園長
が、やれやれと嘆息しながらイゾルデの横に立った。
「イゾルデ・メディチ、あんたはなんだい? どこまでこのあたしを虚仮にすれば気が
済むんだい。卒業証書没収してナポリに追放してやろうか。おお?」
「学園長? これはどういうことですか」
 学園長は恨みがましく――若干の憎悪すら篭めて――上目でイゾルデを睨んだ。
「指導部からの要請だよ。ついでにPSと理事会、それに生徒自治委員会からもまったく
同じ注文が来た。ポーラースターに多大な貢献をしたイゾルデ・メディチには、盛大な
見送りを受ける権利があり、それを許可しないなら、あたしを海に突き落としてあんた
を学園長にしてやるってね。……学徒煽動にクーデター? 何なんだお前は!」

122 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:35 ID:???

 怒っているのか照れているのか明瞭としない学園長の後ろで、ジョアンナ女史が「当然
の権利です」と頷いた。ソフィア女史も「特別扱いで良いじゃないか。あんたは特別に
頑張ってくれたんだから」といつもの優しげな笑みを浮かべた。
 さすがのイゾルデも胸に詰まる思いがこみ上げる。
 楽隊が奏でる管弦楽の旋律に、一切の乱れなく整列するポーラースター・セキュリティ
のエリート達。百合の花弁が舞い踊り、去りゆくメディチの最後の姿を見ようと駆け付け
たクルーや後輩たちの歓声が響き渡る。―――H.B.Pが総出でイゾルデの門出を祝福して
くれていた。この壮大な光景は全て彼女のためだけに用意されたのだ。いくら大袈裟に騒
がれるのが好きではない性分とはいえ、斯くまで贅沢な独占行為を疎んじることなど出来
るはずがない。なんて派手好きな連中だと呆れつつ、胸裏は感謝の念で溢れていた。
「ロスチャイルドのお嬢さんを褒めてやってください」
 見送りに駆け付けた教師陣をすり抜けて、見慣れた顔がイゾルデの前に歩み出た。
「ペネローペ……」
 こんな恰好で失礼しますよ、と苦笑された。ランチタイムから抜け出してきたのだろう、
仕事着で見送りに来たことを彼女は恥じていたが、純白のコックコートにくるぶし丈の
サロン――― 一流のシェフ・スタイルは紛うことなきペネローペの正装だ。イゾルデが
不快になど思うはずがない。
「彼女が企画して、色んな委員会に嘆願したんです。なかなか面白い試みですよ」
「まったく気付けなかった。いつ頃計画されたんだ」
「四時間ぐらい前からでしょうか? さっきお嬢様と会った時には、私も知りませんで
した。急場にしてはよく人が集まったと思いますよ。まさに人徳という奴です」
 もちろん、あなたの。ペネローペはそう付け加えた。
「四時間前? 思い付きの範疇だ。無茶をする……」
「まったくだ」と学園長が悪態をついた。
「ほらほら、さっさと行くよ。こうやってPSどもが軍隊ごっこに浸っている間にも、あた
しの財布から人件費がどんどん出ていってるんだからね。せめて有給を消費してやらかせ
っつーの!」
「学園長ご自身が送迎してくださるのですか?」
「しょうがないだろ。あたしが一番偉いんだから!」
 この式典はイゾルデに対してポーラースターが敬意を表するために行われているのだか
ら、学園長が船を代表してイゾルデを見送るのは当然だが―――過分な栄誉に、さすがに
身が竦む思いだ。深く一礼して「よろしくお願いします」とだけ言った。
 学園長はイゾルデの左手につくと、さっさと歩き出す。ソフィア女史が「ごきげんよう」
と微笑んだ。イゾルデは深く頷くとポーラースターの化身とも言える女の背中を追った。
 PS儀仗隊が待つ最下層まで、長い階段が緩やかな弧を描いて続いている。途中のテラス
で、若き白百合―――後輩たちがイゾルデを待ち受けていた。

123 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:35 ID:???

 拍手で迎える乙女たちに挟まれて、万感の思いで絨毯を踏む。途中、見知った顔を認め
てイゾルデは足を止めた。本来なら栄誉礼を乱す非礼な行為だが、そこまで格式張った送迎
でもない。学園長も立ち止まって、無言で待ってくれた。
「……やってくれたな」
 イライザ・ランカスター。イゾルデがその名を口にすると、メイドの前に人垣を作ってい
た生徒たちがさっと横に割れた。立場を弁えて控えめに見物するつもりだったのだろうが、
名指しされた以上前に出るしかない。ランカスターはしとやかな足取りで近づいてきた。
 よく見ると、彼女の背中に見慣れた金髪の少女が隠れている。
「……ルネ。貴様にもまんまと嵌められた」
 びくり、と少女の肩が震えた。
 ランカスターは微笑を絶やさず、いつも通り感情を読ませない。
 イゾルデは嘆息した。
「おまえ達が望むような結果にはならなかったぞ。ニコルを余計に傷付けることになった。
まったく余計なお節介をしてくれたな。……この借りをどう返すつもりだ」
「あら、何のことでしょうか」
 ランカスターはしれっと言い放つ。
「わたくしは、メディチ様の下船予定時刻に楽隊の準備が間に合いそうになかったため、
ニコル様にエレベーターで足止めしてくださるようお願いしただけですわ」
「……まあ、そうだろうな」
 くつくつと喉を鳴らす。
 ランカスターの背中から、恐る恐るルネが顔を出した。
「……ニコルを傷付けたってどういうこと? あたし、余計なことしちゃった?」
「大したことではない。拒んだのはニコルだ。私が振られた」
「イズーが?! そんなのあり得ないよ!」
 それは残念ですわ、とランカスターが口を開く。
「メディチ様がニコル様を引き取って、一緒に船を降りてくださったら、わたくしは大変
都合が良かったのに。杏里様独占計画が早くも頓挫しそうです」
 ルネが目を丸めた。「そんなこと考えていたの?!」
 もちろん冗談でございます、とメイドは微笑む。
「彼女には待つと言った。それで十分だ」
 ニコルはギャンブラーだが自分は違う。負けると分かり切っている勝負に賭けたくなる
時もあった。
「……だが、」
 ガーネットの瞳で密室ゲームの首謀者を睨み付けた。
「ランカスター。お前を相手に待つような真似はしない。手加減など期待するなよ。いつか
必ず、そのメイド服を剥ぎ取ってみせる」

124 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:36 ID:???

 チーフメイドは嫣然とした表情を崩さない。
「それは期待せずにはいられませんね。わたくしも激しい方が好きですから」
「何それ?!」
 話の流れが理解できないルネは、ランカスターとイゾルデの顔を交互に見上げた。
「どういう関係なの!?」
 イゾルデは呵々と哄笑して二人から離れた。
 背後でルネがランカスターに問い質しているのが分かる。「ルネ様にはまだ早いですわ」
と適当なことを嘯く使用人に、子供扱いするなとルネは食ってかかっていた。
 さて、いつの間にあの二人は親交を持つようになったのか。イゾルデが知る限り、多数
のメイドがいる中で、ルネがランカスターと親しくするような縁は無いはずだ。思えば
二人が共謀して密室ゲームを仕掛けたのも意外だった。あの様子だとルネはだいぶランカ
スターに懐いているようだ。アンリエットの陰で、ファーストに絶大な支持を受けている
メイドがいるとは聞いていたが―――どうやらルネに対する後顧の憂いは必要なさそうだ。
 わざわざ待機してくれていた学園長に目で頷く。歩みを再開した。学園長は暫く送迎者
に徹してくれて、無言で進み続けたが「あ、そうだ」と言って立ち止まった。
「あっちには挨拶しなくていいのかい」
 彼女が顎で指し示す先には、ヘレナ・ブルリューカが立っていた。
 秀美な銀髪を三つ編みにしてシニョンのように後ろで纏めた髪型は、まめな性質の彼女
によく似合う。胸の位置で両手を組んで、イゾルデの送迎を眺めていた。
 突然、学園長に顎で指されて「はい?」と声を裏返す。
「メイドにばっかかまけてないでさー、後継者にも何か言ってあげるべきだろう」
「なるほど。では……」
 学園長は「そゆこと」と頷いた。
 隣に立つ黒髪のセカンドがヘレナの背中を押した。風紀の守護者は戸惑いながら、一歩
前に出る。「あ、あの……」緊張で声で上がっていた。何度もつっかえながら、ようやく
祝辞の言葉を口にする。
「そ、卒業おめでとうございます!」

125 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:37 ID:???

 彼女とは何度か言葉を交えたことがあった。親しい間柄ではないが才覚は買っている。
「ありがとう、ブルリューカ。だが、そう構えられてはかなわんな。来年は君がこのよう
に見送られる立場になるのかもしれんのだから、今の内に馴れておかないといけない」
 こんなん二度とやるか、と背後で学園長が叫んだ。
「そ、そんな。わ、私はこんな盛大に表敬されようなことしてませんから……」
「これからやるのだ。私が自治委員会を代表して、来期の委員長に君を推薦させてもらっ
た。学園長は受理するつもりでいらっしゃる」
「え、えええー!? そ、そそ、そんな私が……」
「―――あら。ここは『光栄です』と意気込む場面でしょう?」
 おめでとう、と黒髪の少女がヘレナの肩を叩いた。癖の強い黒褐色の髪とは対照的に、
石膏像の如く白い肌。緊張感のある秀麗な眉目には見覚えがあった。
「君は確か……」
「クローエ・ウィザースプーンです。こうしてお話しするのは初めてですが、前々から
お会いできたらと思っていました。生ける歴史を最後に見送れて光栄です」
 ああ、と頷く。ニコルや天京院同様、アンリエットに孤独を侵された者の一人だ。
「この船の設計者の娘だな。ニコルから何度か話は聞いている。……そうか、なるほど。
これは盲点だったな。お前を利用すれば、全ては解決する」
「……何か気になることが?」
 ウィザースプーンの表情が僅かに強張った。
「いや、少し疑問に思っていたのだ。あのエレベーターに電子盗聴機の類は無かった。
にも関わらず、なぜ緊急装置を切るような危険な真似をしたのか。ランカスターらしく
ない無謀さだが―――どうやら私が気付けなかっただけのようだ。電子機器を用いずと
も、盗聴する手段はあったのだな」
「……私には分かりかねるお話です」
「よく間に合ったな。左舷上層寮―――セカンドの宿舎から、ここまでの道のりは遠か
ったろう」
「……」
 顔には出さないが、気配でたじろいでいるのが分かった。ランカスターほど図々しく
はなれないようだ。

126 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:37 ID:???

「そう! そうなんです」
 矛先が逸れたことを知ったヘレナは、委員会の話を流そうと必死にまくし立てる。
「クローエったら、イライザと一緒にずっと部屋に篭もっていて。私は何度も、一緒に
先輩の卒業を見送りましょうと誘ったんですけど……ついさっき、ようやく顔を見せたん
です。騒々しいのが嫌いだから来たくないのかと思ったら、そういうわけでもないみたい
ね? 本当、難しい子なんです……」
「あなたね……」
 クローエは横目でヘレナを睨んだ。
「恨むわよ。あとで覚えてなさい」 
 構わん、と手で制する。盗聴の仕掛けが分かったところでどうこう言うつもりは無か
った。無粋な電子盗聴器に対する警戒ばかり強めて、アナログへの対抗策をまったく考え
ていなかった自分が迂闊だったのだ。いい経験になった。
 来期委員長を支えてやってくれ。クローエにそう言い置いて、階段を降りた。「ああ!
私には無理よ」とヘレナが蹲っている。苦笑しつつ、先導する学園長に問いかけた。
「彼女にあなたの相手が務まりますか」
「むしろ大期待だね。今年の委員長が何でも完璧にやっちゃうつまらない奴だったから
さー、来期はその分だけ遊んであげたいよねー」
 それは哀れとしか言いようがない。
 階段を降りきると、儀仗隊が二人を迎えた。指揮官がサーベルを抜刀してブレードを肩
で背負うと、それに倣い礼服姿のPSたちは一斉に捧げ銃の敬礼を行う。一分の乱れもなく、
見事なまでに均整が取れていた。「こいつ等はこれがやりたくて仕方ないんだよ」と学園
長は溜息を吐いた。
 桟橋に辿り着く。小型艇はエンジンに火を入れて待っていた。純白のボディが陽光に
反射し、イゾルデの目を眩しく貫く。学園長は立ち止まると振り返り、腰に提げた和泉守
を抜いて敬礼した。見送りはここまでと言うことだ。
 ランチに乗り込もうとタラップに足をかけた時、頭上から声がかかった。
「……やあ、待っていたよ」
「天京院?」
 潮風に白衣の裾を揺らす天才の姿があった。手を差し伸べてきたので、遠慮無く握る。
引き上げられ、ついにイゾルデは船上の人となった。

127 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:38 ID:???

「どういうことだ。私と一緒にポーラースターを降りるつもりか」
 まさか、と天京院は肩を竦めた。
「ランチの調子が悪いと聞いたから、調整を手伝っていただけさ。どうも人手が足りなか
ったみたいだからね。余計なお世話だったかな」
「いや、感謝する。迷惑をかけたな」
 天京院はデッキから正門の光景を仰いだ。降りしきる百合の葩(はなびら)に、楽隊の
奏でる行進曲。止むことのない生徒や教師たちの拍手や歓声。さすがだな、と呟いた。
「私も三年間いたが、ここまで盛大な見送りは初めて見た」
「些か大仰ではあるがな」
「君だからこそ許される。メディチの名に相応しい門出だ」
 天京院は俯くと数秒だけ考え込んだ。恥ずかしげに鼻をかく。
「……さっきのことを謝っておこうと思ってね。怒鳴ったりして悪かった」
「構わない。挑発したのは私だ」
「君の言葉には色々と考えさせられた」
 エントランスを臨みながら、天京院はゆっくりと――しかし確たる声音で――言った。
「……私も覚悟を決めたよ。明日、船を降りる」
「ほう? いいのか」
 ああ、と悩める天才は頷く。
「このままずるずると船に残り続けても、どうなるわけではないからね。結局、杏里の
ペースに乗せられてしまっている自分に気付いたんだ」
 言葉ほどの力強さは無かった。覚悟を決めたところで迷いが消えるわけではない。割り
切らなければならないと理性が認めつつ、彼女はこの先もあらゆるしがらみに悩まされな
がら生き続けるのだろう。目に余る不器用さ加減だ。

128 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:39 ID:???

「天京院、一つ訊ねてもいいか」
「ああ、構わないよ。なんだい」
「『私と一緒に船を降りてくれ』とは言わないのか」
 天京院はイゾルデの横顔を瞠った。
「……それは思い付かなかったな。確かに、杏里なら考えてくれるかもしれない」
 でも無理だよ、と続ける。
「それを言えないから、私はこうして苦しんでいるんだ。情けない話だがね」
 だろうな。声に出さずに同意する。
 それに、その台詞は言うと断られるジンクスがあるみたいだから、却下した天京院は
賢明だ。アドバイスではなく単純に好奇心から訊ねたに過ぎない。
 天京院は桟橋に降りると、白衣のポケットに両手を突っ込み思案顔でイゾルデを見上
げた。口を開いたと思ったら閉じ、何度も口内で反芻しながら言葉を紡ぐ。
「……君は下船したら、フィレンツェに直帰するのか」
「いいや、暫くイタリアに帰る予定はない」
 そうか、と天京院は曖昧に頷く。
「これはアイーシャの提案なんだが……」
 陽光が眼鏡に反射し、瞳を隠した。
「彼女もシンガポールに帰らず、三週間ほどギリシャに滞在する予定らしい。エーゲの島
を一つ貸し切って身体を休めると言っていた。―――どうだ。君も遊びに行く気はないか。
彼女はかなり張り切って招待するつもりだ」
 卒業旅行というわけか。ふむ、と顎に指を当てた。スケジュールは一年先まで組まれて
いる。それを理由に、ニコルの嘆願を振り切りもした。予定は忠実に消化しなければなら
ない。だが、青い海に蒼穹の空、そして純白の建築物―――地中海に住まう人間として、
なまじっかエーゲ海の魅力を知っているからこそ、その誘いには抗い難い。
 何より卒業旅行という俗っぽさが気に入った。
「良いだろう」
 まるで何かの契約を結ぶかのように事務的に答えた。
「明後日にプラハで面会の予定がある。それを終えたら、真っ先に向かう」

129 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:39 ID:???
「そうか。それは良かった」
 天京院の表情に安堵の色が浮かぶ。
「アイーシャもきっと喜ぶ。あとで私から伝えておこう」
 そうしてくれ、と返事した。
「しかし意外だな、天京院。こういう類の歓楽は私よりもお前の方が忌避しがちだと思っ
ていたが……良いのか。エーゲ海の陽射しは鋭いぞ」
「私は強制みたいなもんだ」
 天京院は苦笑するが、アイーシャにそんな強引さはない。無理矢理招待された。そう
自分に言い聞かせておいたほうが、動きやすいのだろう。本当に難儀な奴だ。
 天京院は一度日本に帰ってからギリシャに向かうと言った。私室に置いていく研究機材
が、アンリエットたちに弄られていないか気になるらしい。「我が子を残して、帰郷する
ようなもんだ」と呻く。アンリエット達とてさすがに弁えているだろうから、悪戯を仕掛
けたりはしないだろうが、彼女たちの場合は「うっかり」がある。油断はできない。それ
が天京院の言い分だ。船への未練が露骨に見て取れて、イゾルデは苦笑せざるを得ない。
 天才は白衣を風に揺らしたまま、盛大な見送りが続くエントランスを見つめ続けた。
眩しそうに、目を細めて。―――明日は彼女がイゾルデの立場で桟橋に立つ。着実に迫
る夢の終わりに、想いを馳せているのだろう。
 ふとその秀美な眉に皺が寄った。
「……なんだ、あれは」
 つられてイゾルデもエントランスに向き直る。飛び込んだ光景―――「ほう」と吐息を
漏らした。口端に喜悦の笑みが走る。
 天京院の訝しんだ理由。イゾルデの笑みの正体。―――キャラメルブラウンの髪を振り
乱して、階段を駆け下りるニコル・ジラルドの姿があった。
 生徒や教師の人垣をかき分け、PSの制止を振り切る。「なんだぁ」と学園長が声を尖ら
せた。今にも腰の和泉守を抜きかねん勢いだったが、イゾルデが無言で頷いたため渋々
姿勢を正す。階段から桟橋に降り立ったニコルは、息を荒げながら歩み寄った。
「イゾルデー!」
 擦れた声で叫ぶ。
 胸を上下させて酸素を貪る幼なじみの姿を見て、イゾルデは失笑する。鈍足の癖によく
よく走るのが好きな女だ。

130 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:40 ID:???

「おい! なんで、君がここにいるんだ」
 呼吸を整えるニコルの前に、天京院が立ちはだかった。
「ニコル。君は私の部屋で立て籠もっているはずだろう。どうして外に出られるんだ」
「悪いね、カナエ。今はそんなことどうでもいいんだ」
「どうでもよくはない!」
「いや、どうでもいい」
 ランチ艇のデッキに立つイゾルデが背後から口を挟んだ。
「天京院、悪いが外してくれないか」
「……」
「どうでもいい」と断ぜられたことがよほどに気に障ったのか、悩めるプロフェッサーは
白衣の裾を翻して桟橋から離れていった。足取りが荒々しい。「全然どうでも良くないぞ
……」と何度も呟いているのが、潮風に乗って耳朶に響いた。
「エーゲの碧天の下で待っている!」
 背中に声を掛けると、天京院は右手を上げて応えた。
 
「さて、」
 乱入者へと向き直る。タラップを降りたりはしない。船上から見下ろすイゾルデ。桟橋
から見上げるニコル。これが二人の距離だ。
「どういうつもりだ。別れは済ませたはずだが」
「相変わらずぬるいね、イズー。あんなので人の気持ちに決着がつくと思ったのかい」
 乱れた前髪から覗くニコルの碧眼。一つの覚悟が燃えていた。勝負師の目ではない。
負けず嫌いな性分が芽を出している。悪い兆候だ。
「滅多なことを考えるな」と牽制した。
「このままあんたとお別れって言うのは、どうにも気持ちが悪いんだ。頼んでもいないの
に保護者役を買って出られた挙げ句、あたしに礼の一つも言わさないで卒業? ふざけん
なってんだ。それであたしの気が済むもんか。あたしはあんたと対等でいたいんだ」
「その話は終わった」
「いいや、終わらせない。決めたよイズー、あたしは―――」
「やめろ!」
 声を荒げて制止する。
「学園長もいらっしゃるんだぞ。迂闊なことを言うな。理性を取り戻せ。ニコル・ジラルド
はしたたかなギャンブラーなのだろう。ならば、今からお前が言おうとしている台詞がどん
なに馬鹿げたことか分かるはずだ」
 にやり、とニコルは笑った。

131 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:41 ID:???

「そんな馬鹿げたオーダーをしたのはあんただ」
「お前はさっき、頷くことができなかった。自らの判断を悔いろ。それでお終いだ」
「考える時間ぐらいくれたって良いだろう」
 自棄になっている。イゾルデにはそう思えた。彼女にほえ面をかかせるために手段は
選ばないといった気勢だ。ニコルらしいが、賢明とは言えない。
 顎を持ち上げて、厳しく凝視した。
「お前の背中に広がる光景を理解できぬわけではあるまい。エントランスから、ウィーザ
ースプーンが、ブルリューカが、ランカスターがお前を見守っているぞ。天京院の部屋で
は、ハミルトン達だって待っている。彼女たちを裏切って、私とともに往くと言うのか」
 さすがにこの口舌は堪えたのか、ニコルは表情を歪めた。
「……あんたには借りがあるんだ。それを返し切るまで、帰れない」
 消極的な理由だな、とイゾルデは嘲笑う。
「アンリエットにも莫大な借りがあるはずだ。それはどうする」
「あれは返すもんじゃないから良いんだよ」
 自嘲を感じさせる皮肉げな笑み。だが、その奥に揺るがぬ信頼があることをイゾルデ
は見逃さない。
「……ずっと借りておきたいんだ」
 ふざけたことを言ってくれる。ありありと未練を見せつけられて、首を縦に振るとでも
思っているのか。大体、この女がアンリエットと別れられるはずがなかった。
「私はそんな言葉は信じない」
「信じさせてやる。あたしがだ」
 胸の焼き付きを押し殺す。
「―――それは私が機会をくれてやれば、の話だ。だが、私はいまさら遅れてやってきた
お前の要求を呑むつもりなどない」
 もちろん、そんな言葉で納得させられるとは思っていない。ポケットからコインケース
を取り出すと、時代がかった銀貨を一枚かざした。ニコルも見慣れているコインだ。
「私たちらしく、賭けで決着をつけよう。コイントスだ。シンプルで良かろう」

132 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:42 ID:???

「イズー。だって、それは……」
 オクタヴィアヌスの横顔が彫られたデナリウス銀貨―――の模造品。フィレンツェの土
産屋を漁れば一ユーロで二枚は買える玩具だ。作りが粗雑で重心も寄っているせいか、
酷くバランスが悪い。そのため、この偽銀貨を用いてコイントスをすると、僅かな練習
だけでオクタヴィアヌスの面を確実に伏せることができた。フィレンツェの下町っ子なら
誰もが知っている初歩的なイカサマだ。このコインを用いてコイントスをしようと持ちか
けられた場合、それはフィレンツェを知らない余所者だと見くびられているに等しい。
 かつて、イゾルデは何度もこのコインに騙された。種を明かされた時は、その単純さ故
に三日間ニコルと口を利かなくなった。「悪い悪い」と謝って彼女がくれたのが、いま
イゾルデが手に持つ偽銀貨だった。
 だから当然、ニコルもこの偽デナリウス銀貨を用いたコイントスが、何を意味するかは
知っている。ギャンブルに公平性など存在しないが、露骨なイカサマを見逃す道理もない。
「私は裏に賭ける」
 ラテン語で銘文が刻まれた面だ。普通に投げれば、まず間違いなくこの面が天を仰ぐ。
「私が負けたら、お前の好きなようにするがいい」
「……あたしが負けたら、船に残れって言うのかい? はん、冗談じゃないね。そのコイン
での賭けにあたしが乗るわけ―――」
「お前がトスしろ」
 コインを投げた。慌ててニコルは受け止める。前髪に隠れて見えないが、目は見開かれて
いるに違いない。―――彼女の腕なら、偽銀貨を用いて十割の確立で表面を空に向けさせる
ことができた。それどころか、ニコルはコインを投げ付けて相手が受け止めた面を操作する
ことすら可能だ。勝負に、ならない。
「イズー、何のつもりだ。これじゃあ……」
「お前が負けた時の条件は私が決める。船に残るだと? それは賭けの対象にならん。ファ
ーストのお前がサードまで船に残るのは当然の話だ。私が勝ったら、そうだな……」
 今までの緊張を霧散させるかのように、ぽつりと呟いた。
「……三ヶ月後にジュリアーノのコンサートがある」
「はぁ?」
「それに、招待させてくれ」
 コンサートと言っても発表会のようなもので、弟の他にも同年代のピアニストが多く
参加する。だがそれでも、光を失って以来ジュリアーノが初めて立つ晴れの舞台だ。
 弟がメディチの長男だったということは伏せられている。イゾルデも身分を隠して出席
しなければならない。だが、そのお陰でニコルを連れてゆくことだってできた。素性を
誤魔化して入場する少女が二人に増えるだけだ。

133 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:43 ID:???

「ジュリアーノもお前に来てもらいたがっている」
「何だよ、それは。あたしが勝ったら招待しないつもりかよ」
「当然だ」
「……イズー、あたしは真面目に言ってるんだぜ」
「私はいつだって真剣だ」
 ずりぃ、とニコルは呻く。イゾルデは傲慢な笑みを絶やさない。
 胸の焦げ付きがだいぶ静まっている。そこでふと閃いた。
「ふむ、そうだな。確かに、私が負けた場合、たいそうな荷物を背負い込むと云うのに、
お前が負けた場合のリスクは皆無に近い。これは公平ではないな。……もう一つ、私が
勝ったときの条件を示させてもらおう」
 あの時の写真を持っているか。そう訊ねた。ニコルは怪訝な顔をして「写真?」と問
い返す。サンティッシマ・アンヌンツィアータ広場でジュリアーノとイゾルデとニコル
が、三人で写っている写真だ。三人が一緒に――いや、イゾルデとニコルの二人でも――
写ったた唯一の写真だった。
「ああ、これのことかい?」
 スカートのポケットからカードケースを取り出すと、一枚の写真を引き抜いた。持ち
歩いてくれていたのか……。胸に熱い何かが走る。
「これがどうしたんだよ」
「私が勝ったら、貰う」
「はぁ?」
 今度こそニコルは声を裏返した。
「絶対にイヤだね! あんた、自分の持っているだろ」
 ああ、と頷いて胸ポケットから写真を抜いた。胸の焼き付きの正体―――最後に自分の
部屋に寄ったとき、ライティングビュローで発見したものだ。ジュリアーノを中心に、三
人が肩を組んで笑みを投げかけていた。せっかくフィレンツェの観光名所で撮影したとい
うのに、レンズに接近し過ぎているため背景が判然としない。
 中央のジュリアーノの穏やかな表情―――控えめながらも心から愉しんでいることが分
かる。瞳には眩しいぐらいに希望が宿っていた。まだロウティーンだったイゾルデは、
戸惑いがちに微笑んでいる。対照的に、これでもかと云うぐらい快活な笑みを浮かべてい
たのがニコルだったのだが―――生憎と、イゾルデが持つ写真に彼女の笑いはない。
 顔の部分だけ四角に切り抜かれていた。
 ニコルを憎悪してやまなかったあの頃、怒りに駆られて行ってしまった愚かな行為だ。
今では後悔している。今朝、数年振りに写真を見たときには完全なものが欲しいとすら
思った。だから、要求するのだ。

134 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:44 ID:???

「いや、何だよそれ!」
 あまりに身勝手な交換要求にニコルは声を荒げた。
「勝手にあたしの顔を切り取っておいて、いまさら交換しろなんてどこの暴君だい。ネロ
皇帝だって、あんたに比べたら慈悲深いよ。まったく」
「しかたない。ニコルの顔が写っているのが、どうしても欲しかったからな」
 う……、と彼女の声が詰まる。ジュリアーノは失明したとき、狂乱した母がニコルの
写真をネガごと全て焼き捨ててしまった。だから弟もこの写真は持っていない。
「そんなこと言ったって、あたしだってこの写真は大事だってぇの……」
「私のにも、ジュリアーノと私は写っている。それともニコルはナルキッソスなのか?」
「そういう問題じゃない!」
「拒むのなら勝てばいい。あくまで賭けの景品なのだから。覚悟を決めたのだろう?」
 恨みがましい視線を幼なじみは投げ付けてきた。
 また逃げられた、とでも思っているのだろう。
 先に続き、またしても選択権はニコルの手に委ねられた。
 彼女が選び、彼女が決めるのだ。
 待つのはいつだって自分の方なのだから、それでいい。
 ここに至り、なおニコルが一緒に往くことを望むなら受け入れたっていいだろう。
 期待はしていないが、面白そうだとは思う。
 
 ニコルは小さく溜息を吐くと、コインを弾いた。
 ローマ帝国の通貨が陽光の海で踊る。
 階段の踊り場から、二人を見守る女神像をイゾルデは仰いだ。
 
 
   私にとってこの学園は、
   やがて世界に羽根を広げるメディチの足かけに過ぎなかった。
   勉学の精励も委員会の職務も、趣味のセイリングや享楽でさえ、
   全てはメディチに還元されるものと信じて疑わなかった。
   私の全てはメディチによって成り立っていた。それが絶対の秩序だった。
  
   一年前、秩序は乱された。
   わざわざ私に復讐の機会を与えにきた、愚かな女がいた。
   メディチに凝り固まっていた私に、無いはずの私憤を授けた女が、いた。
   思えばあの頃から、私の中で何かが輝きだしたのだ。
   それが黄金か否かは判断できないが、メディチとしても、イゾルデとしても
   ―――価値を認めずにはいられない。
  
  ……楽しかったよ、ニコル。
  
 落下するコインを、少女は右手の甲で受け止め、左手で蓋をした。
 潮風が背後から吹き抜ける。
 楽隊の演奏は未だ止むことはなく、参列者の歓声も絶える気配を見せない。
 ニコルは静かに、左手を上げた。
 イゾルデは瞼を閉じると、呟いた。

「―――Arrivederci.ci vediamo Nicolle」

 それは、もう春と呼ぶには遅いながらも、陽光うららかな日の別れだった。

135 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:44 ID:???

Epilog


 つまり、イゾルデ・メディチっつーのは自分勝手な奴なんだ。
 
 ナビゲート・スクリーン手前の段差に腰掛けたニコルは、イゾルデと交換した写真を見
つめていた。顔の部分をハサミで切り抜かれた上、ご丁寧なことにジュリアーノとニコル
が肩を組んでいる部分を境に折り目までついている。当時のイゾルデが、自分に対して如
何に憎悪を注いでいたかが分かる。
 徹底的に嫌悪され、忌避され、恨まれていたあの頃のことを考えると胸が痛んだが、
もう終わった話なのだから引き摺るような真似はしない。酒の肴にできてしまうぐらい
気持ちの整理はついている。良い思い出とは言わないけど、悲嘆に暮れることもない。
 けど、だからって、こんなんあたしに押し付けてどうしろって云うんだ。
 自分で切り取った癖に、怒りが収まったら「交換してくれ」だなんて勝手すぎる。彼女
は昔から強引で、自分が決めたことは絶対に曲げようとしなかった。
 うまくない。うまくないなぁ。そう自分を責め立てる。もうちょっと巧妙な立ち回り方
があったんじゃないか、と今では反省すら覚えていた。結局イゾルデに振り回されて終わ
ってしまった。こんな写真まで押し付けられて、自分の宝を奪われて「貸し借り無し」だ
なんて馬鹿げている。そんなのでニコルの気が済むはずないってことは分かりそうなもの
なのに、イゾルデは満足そうに出て行ってしまった。自分が納得できていれば、それでい
い奴なんだ。ほんと、自分勝手だ。
 そんな強情で身勝手なイゾルデ・メディチは、もう船にはいない。
 その現実に、明日から自分は耐えることができるだろうか。無理だ―――と太股を拳で
叩いた。イゾルデの下船はニコルにとって、怖れていた「現実」の到達だった。入学して
から一年間、保たれていた幸福な日常が壊れてしまった。あまりに苛酷な、現実。

136 名前:勝手に保管 投稿日:2008/03/04(火) 23:45 ID:???

「なん、だよ……」
 苦笑を漏らす。息苦しさを覚えるほど、胸が詰まっていた。
「待ってる、なんて勝手なこと言うなよな……」
 あたしは誰かを迎えに行くのが苦手なんだ。自分は自分、相手は相手のペースで生きて
ゆくのが好きだから、他人の腕を強く引っ張れない。ケツを叩くことはできても、後は背
中を見守るだけだ。一緒に走ったりしない。―――そこまで考えて、ニコルは「ああ」と
納得した。それはイゾルデも同じだ。彼女もまた、他人を牽引するような真似はしない。
 互いに待ち続けていても埒が明かない。どっちかが飛び出して、迎えに行くしかないの
だ。イゾルデはあの通り強情だし、ヴェッキオ橋の借りがあるから―――やっぱり自分が
動くしかないのか。楽じゃないなそれは、と頭を垂れる。
 イゾルデが去った。
 アイーシャはいま、エントランスで別れの真っ最中だ。一時間前の盛大な表敬に比べる
とあまりに質素で注目も薄いが、アイーシャに取っては千万の人に見送られるよりも価値
ある時間のはずだった。
 彼女が終われば、次はやっぱり天京院なんだろうか。
 そして、その次は―――
「あー、やめだ。やめ!」
 部屋に帰ろう。籠城中の天京院の私室だ。アルマが待っている。ニキが待っている。
アンが待っている。イゾルデはニコルの抵抗なんてまったく無視して降りてしまったが、
彼女たちの攻撃は続投中なんだ。部屋に帰って、続きをやろう。馬鹿な現実逃避だとは
分かっているけど、やらずにはいられない。
 だけど、その前に出迎えるべきカサノヴァがいた。
 柱廊の奥から、見間違えようのない人影が歩み来る。思ったより時間はかからなかった
ようだ。あっさりとしたもんだと思う反面、それを受け入れることのできたアイーシャの
強さに妬みも覚える。同い年のはずなのに、どうしてああも立派に振る舞えるのか。
「よっ」と声を掛けて段差から跳び上がる。日焼けした写真は、スカートのポケットに突
っ込んだ。イゾルデを相手に成功した試しは無いが、自分には「ニコル・ジラルド」とい
う役目がある。今はもうすっかり打ちひしがれて、一分だって続けられそうにないけど、
それでも恰好はつけなくちゃいけないんだ。
 腕を組んで、ちょっと小生意気な印象を人に与える笑みを浮かべる。前髪でうまく瞳を
隠せば、ニコル・ジラルドは完成だ。
 待ち人は、ニコルの前で立ち止まった。自分のように様々な葛藤に縛られた苦悩では
なく、純粋に愛する人が去ってしまったから浮かべる消沈の表情。そんな顔をするなら、
あたしのことだって考えておくれよ―――今にも吐き出しそうな本心を必死で押し殺し
て、軽口を叩いた。

「ちぇ。やっぱり予想通りだ。情けない顔してるよ、杏里」


















晩春物語
『フィーネ・プリマヴェーラ さよならイゾルデ!』




 THE END

137 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/03/09(日) 00:55 ID:7f3S.TsA
???月別に貼られてた。おじさんは悲しいぜ。(少し笑ったがw)

       ___
     /      \
    /   ⌒   ⌒\
  /     ,(⌒) (⌒)、\    マスクドシャンハイ買ってきたお!
  |     /// (__人__)/// |   
  \      ` ヽ_ノ   /   
    ヽ    , __ , イ
    /       |_"____
   |   l..   /l´マスクド上海`l
   ヽ  丶-.,/  |_________ |
   /`ー、_ノ /       /

         ___
       /      \
      /ノ  \   u \ !?
    / (●)  (●)    \ 
    |   (__人__)    u.   | クスクス >
     \ u.` ⌒´      /
     /       __|___
    |   l..   /l´マスクド上海`l
    ヽ  丶-.,/  |_________ |
    /`ー、_ノ /       /
         ____
.< クスクス  /      \!??
      /  u   ノ  \
    /      u (●)  \
    |         (__人__)|
     \    u   .` ⌒/
     /       __|___
    |   l..   /l´マスクド上海`l
    ヽ  丶-.,/  |_________ |
    /`ー、_ノ /       /

138 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/03/09(日) 20:38 ID:???
マスクドは普通に良作なのになぁ。
嘘屋だというだけで差別されるのは悲しいな。

139 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/03/11(火) 02:21 ID:???
B級ってのはそういう扱いされてこそだろう
笑われながら胸を張れ

140 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/03/12(水) 00:15 ID:???
あれはマスクド発売日辺りに嘘屋儲が出張したのが原因だと思う
それから>>137みたいな流れになってる

141 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/03/12(水) 00:36 ID:???
今もだが、発売日は特に浮かれすぎてたからなあ
外から見れば「何してんの…?」だろうし

142 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/03/14(金) 17:06 ID:???

           ヽ(`・ω・´)/<チハ坊、死なない程度に吹き飛ばしてやれ!
        ____r_―_―_:ュ___r;___
          `\_ヘ,i_ ̄___:i__〃_}{/"
          i :i:' `'r=====ュ''´ :i: i
            i :i:   || ◎ ||   :i: i .oO(ご主人様興奮してるけど、
         __,i_:i:__ 、,‐゙┘:シ__,:i_:i__ 輝石のことはどうでもいいのかなぁ……)
        /'  `:,:=‐‐=:'" :! ̄_,r=ヽ_  :i:\
      ――ュ__,/. L ,,! i,',_, :i_-、_゚','ノ-' ,r――
     :::―:::,_i   ̄,,,...、、 ◯ 、、..,, _ ̄ ̄i_,:::―:::
     i::三::ii i ̄        ̄       ̄:l ii::三::i
     i::二::iL!‐i ̄ ̄ ̄ ̄'C' ̄ ̄ ̄ ̄l‐Lii::二::i
     i::三::i,:'、____________,/、i::三::i
     i::三::i                       i::三::i
     ` ̄ ´                      `  ̄´

143 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/03/14(金) 22:44 ID:???
《  ミ、 \             /          ィ乍 "           | }}
.ヘ   _  ヽ             /         ィ豸"               ∧}}
. ハ(゚)  X                    ィ孑´                ∧ノ
 ∧    キ、                 ィナ''                ∧/
./ |ミヽ、  ヾ               〃'      _           ∧ミ
::::::∧` "'=、_ \            /{''      (゚ )          ∧三
::::/ ∧   `¨`‐           斤λ        ̄         ィ彡' /
:/:::::::∧    ≠          ∠-―≧ェ、_        _,ィ≦-― ´
::::::::::::::∧                 "'''      ̄¨¨¨¨ ̄ ̄ ''´´   _-ニニ
::::::::::::::::::::>、    |                         _ -フ/   /
:::::::::::::::/ ヽ、  〈                         _,.、‐''/  _,.'" :::
::::::::::/    `ヽ、_\  _                  _,.、‐'"/:.:./   '" ::::::::::
:::::/        `ヽ、_                 _,.、‐'" :/ /./ _,. '":::::::::::::::::::
/             ~ヽ、,__.  _   _,.、‐'" : : : :/  /_,. '":.:.:.:::::::::::::::::::::
                `\` ̄\ ̄¨¨ : : : : : : / _彡‐'":.:.:.:.:.:.:.:::::::::::::::::::::
                  ` ‐- ` ー…− ¨≦.:´:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:::::::::::::::::::

144 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/03/16(日) 00:07 ID:???
    ,..-──- 、     
    /. : : : : : : : : : \    
/.: : : : : : : : : : : : : : ヽ    
  ,!::: : : :,-…-…-ミ: : : : :',
  {:: : : : :i '⌒'  '⌒' i: : : : :}  
  {:: : : : | ェェ  ェェ |: : : : :}      
  { : : : :|   ,.、   |:: : : :;!    
 ヾ: :: :i r‐-ニ-┐ | : : :ノ     
  ゞイ! ヽ 二゙ノ イゞ‐′    
-----------------------------------
 道化師の男 「こんにちわ、ギー」
-----------------------------------

145 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/03/16(日) 00:07 ID:???

  ヽ( ゚∀゚)ノ        ヽ( ゚∀゚)ノ       ヽ( ゚∀゚)ノ
   (グ )ヘ        ヘ( リ)         (ム )ヘ
   <               >         く

-----------------------------------
 ギー (ああ、視界の端で―― )
-----------------------------------


146 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/03/18(火) 23:11 ID:???
↓F ↑            /. : : : : : : : : : \           
↓C ↑           /.: : : : : : : : : : : : : : ヽ
↓入↑          ,!::: : : :,-…-…-ミ: : : : :',         
↓会↑          {::: : : :i '⌒'  '⌒' i: : : : :}
└─┘             {:: : : : | ェェ  ェェ |: : : : :}         
.          , 、      { : : : :|   ,.、   |:: : : :;!
   .     ヽ ヽ.  _ .ヾ: :: :i r‐-ニ-┐ | : : :ノ          
          }  >'´.-!、 ゞイ! ヽ 二゙ノ イゞ‐′
          |    −!   \` ー一'´丿 \           
         ノ    ,二!\   \___/   /`丶、
        /\  /    \   /~ト、   /    l \


-------------------------------------------------------------------
 視界の端で踊る幻が 
 また、指をさした気がした。
-------------------------------------------------------------------

147 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/07/07(月) 02:58 ID:???
『霞外籠ってどんな感じ?』という友の問いに、間もなく『そりゃ勿論――』と応じるかに見えて、
青年はその先に継ぐべき語を持たず、掠れるままに語尾を飲み下した。
 これは何も青天の霹靂の如く、彼が前触れも無く唖と変じた為にでも、用うべき語彙を喪失した
ことによるものでもない。そればかりか、身の内には荒ぶる濁流にも似た言の葉が渦巻き、不断より
事あらば噴き出さんとする想いの遣り場に苦慮しているほどの彼なのだ。エロゲヲタの端くれと
して、いつでも一講釈打つ覚悟はできていた。――にも関わらず青年を逡巡させたのは、卑しくも
霞外籠スレに、ひいては嘘屋スレに身を置く自分であるからには、一つ気の利いた、我と同じく
訓練されたエロゲヲタであるところの友をせいぜい喜ばせ得るような、似非文学的な注釈でも付与
すべきかと思い至ったが為である。
 だが青年の思惑をよそに、友は答えが得られずとも構わぬと、数瞬後には他の萌えゲーに目移り
していた。ここで話を引き戻し、鍵や曲芸を論じる友と一戦交えても何ら得るところはない。青年は
失策を認め己の迂闊に恥じ入ると、ただ心根のままに独りごちた。
『(;´Д`)お手伝いさんハァハァ

148 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/07/08(火) 21:59 ID:???
諸君 私はライアーが好きだ
諸君 私はライアーが好きだ
諸君 私は嘘屋作品が大好きだ

ちょーイタが好きだ ぶるまーが好きだ ラブネゴが好きだ 桃象が好きだ
リロリロが好きだ じゃんまげが好きだ 七橋が好きだ メガラが好きだ サルバが好きだ

幕末の京都で 巨大学園船上で とうかんもりで セイファートで 新宿で
地獄西部で ミクロの体内で 《未知世界》で 渋谷で オオエドで
その舞台上で描かれる ありとあらゆる嘘屋作品が大好きだ

右手を伸ばしたポルポルの一撃が 轟音と共に《奇械》を吹き飛ばすのが好きだ

空中高く舞い上がったウルメンシュが 蒼天を駆け巡る時など心がおどる

よしこ の操るチハたんの57mmが 悪仙人を撃破するのが好きだ

悲鳴を上げて葉月を犯した教室に立て篭もったロミオが
ゾンビの仲間入りをした時など胸がすくような気持ちだった

掛け声をそろえた早川応援団が 平和な町を蹂躙するのが好きだ

恐慌状態の新参が幼いドライブにCDを入れず 何度も何度も質問している様など感動すら覚える

懐古主義の古参兵達が「昔の嘘屋は」とぼやく様などはもうたまらない

逆鱗に触れた杏里がクローエの振り下ろした踵にのされ
金切り声をあげるヘレナさんをなし崩しに押し倒すのも最高だ

哀れな声優が しっぽ遊戯で 健気にも熱演した中でも
メカニックのルーシが艶めかしい声で あえいだ時など絶頂すら覚える

セーラにうんこうんこと 滅茶苦茶に罵られるのが好きだ

名作のはずだった作品が値引きされまた値引きされ
売れ残っている様はとてもとても悲しいものだ

大作の物量に押し潰されて埋没するのが好きだ

アンチに粘着され 未だにバグゲーメーカーと言われるのは屈辱の極みだ

諸君 私は作品を どこまでもニッチな作品を望んでいる
諸君 私と共に往く嘘屋信者諸君 君達は一体 何を望んでいる?

更なる売上を望むか? 情け容赦のない糞のような地雷を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし 三千世界の鴉を殺す嵐のようなバグを望むか?

『喝采せよ! 喝采せよ! 喝采せよ!』

よろしい まずは喝采だ

我々は満身の力をこめて 今まさに振り下ろさんとする握り拳だ
ただこの暗いスレの底で十年もの間 堪え続けてきた我々に
ただの喝采では もはや足りない!!

大公爵よ! 一心不乱の大喝采を!!





















  ヽ、_丿         / ⌒ヽ        ノこ__,
 `ニ<  ミ-ヽ、     (( ハ  )      __イ  >z
  `´彡ミ-L ` ̄`ー(′  l )ハーー´  彡ミミ
       \ヽ 、 /( 冫 人  )ヽ、 ´ノノ´
         \、/((  (  ハ) )〉 ン/
          //  `丶ー  ノ \く
        // |        \ \

 『お〜、よしよし。可愛いですねぇ。耳がピクピクしてますねぇ』

149 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/07/09(水) 00:41 ID:???
……で、ROUND a GO GO! はどうした?

150 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/07/09(水) 00:54 ID:???

ここで>>199の名文には比ぶべくもないが、俺も似非文学的に
霞外籠の「ぷろろおぐ」なるものを書き起こして見ようと思ふ。




『吾輩は築宮と言う。過去は思い出せない。
 どこで溺れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でぎゃーぎゃー喚い
ていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて司書というものを見た。然もあとで
聞くとそれは鬼女という「旅籠」中で一番獰悪な種族であったそうだ。この鬼女という
のは時々我々を捕まえて精を吸うという話である。然しその当時は何という考もなかっ
たから別段恐ろしいとも思わなかった。但後肛に指を挿れられてづるりときた時何だか
著しい違和感と快感が有ったものである。叫びながらどうすることもできず司書の顔に
叩きつけたのが所謂顔射というものの始であろう。この時非道いものだと思った感じが
今でも残っている――――。』


151 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/07/09(水) 00:55 ID:???

便乗

私はこの冒涜的な旅籠を初めて目にした時、慄然たる思いを禁じえなかった。
その建築様式においてお手伝いさんが自ら臆面もなく彼女の退廃的な趣味に対する、
唾棄すべき暗い情熱を誇らしげに語る様はさながら地獄めいたものであった。
あまたのお手伝いさんの仕事のうち、最悪のものは一片とてここに記すわけにはいかない。
お手伝いさんの崇拝する、肥大した双丘と異常極まりない痩身があたかも戯画化された
人間を思わせる悍ましい令嬢との妄想の中での交合はお手伝いさんの人間的退行を
如実に示すものであり、彼女の淫汁にまみれた性器はそのためにのみ存在した。
だが、神は慈悲深くもお手伝いさんを粘液質の液体によりじっとりと湿り、
狂気に侵された琵琶法師の作としか思えぬ吐き気を催すような存在をモティーフとした
屍肉食の甲虫の薄羽の如く艶やかな戯曲と如何なる呪われた地に産する
樹木から採れるとも知れぬ樹脂から造られた鬼女の手が飾られた壁に囲まれ、
蘚苔類とも菌類ともつかぬものに床一面を覆われた厭わしいジャングル風呂に引き篭もらせ、
胸の悪くなるような湯ノ花臭満ちる風呂場を除いては、あらゆる部屋の賑わいはお手伝いさん
のものではないこと、 名状しがたい平行感覚による建築物を除いては、あらゆる着飾りは
お手伝いさんのものではないこと、 狂気と倒錯に満ちた酒場を除いては、あらゆる浮かれ
騒ぎはお手伝いさんのものではないことをお手伝いさんに自覚させた。
それゆえ、私が忌まわしくも現実においてお手伝いさんと出会うことは未来永劫ありえぬことだ。
どうかこの書き込みを見るものは人類の安寧のために、即刻削除依頼を出して欲しい。
どこからか精神を病んだ渡し守さながらの、知性宿らぬ獣じみた声が聞こえる。
いや、なぜだ。お手伝いさんが私の家を知るはずがない。ああ!窓に、窓に!


152 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/07/09(水) 00:55 ID:???
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
           O 。
                 , ─ヽ
________    /,/\ヾ\   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|__|__|__|_   __((´∀`\ )< というお話だったのサ
|_|__|__|__ /ノへゝ/'''  )ヽ  \_________
||__|        | | \´-`) / 丿/
|_|_| 从.从从  | \__ ̄ ̄⊂|丿/
|__|| 从人人从. | /\__/::::::|||
|_|_|///ヽヾ\  /   ::::::::::::ゝ/||
────────(~〜ヽ::::::::::::|/     = 完 =


153 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/08/13(水) 02:21 ID:6uCbaGAg
ここの絵はかなーり貴重だと思う。
ttp://pipa.jp/tegaki/VSearchBlogByTag.jsp?GD=7555

154 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/09/10(水) 09:08 ID:???
鳩ブログ。
ttp://hato-blog.jugem.jp/

155 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/10/04(土) 09:28 ID:???
問.次の9つのキーワードの内6つを使って、意味の通る文章を完成させなさい。

怪異
失われたもの
回転悲劇
熱く滾り焦がれるもの
バスカヴィルの魔犬
明日を奪うもの
唯一生き残ったおとぎ話
タタールの門
黄金瞳

156 名前:名無しさん@うそつき 投稿日:2008/10/04(土) 09:29 ID:???
「バスカヴィルの魔犬」事件から三日後。
変わらず昏々と眠り続けるシャーリィを見守るメアリは、嘘のような静寂の中、
それまで当たり前のように享受していた「失われたもの」を思っていた。
……何故、どうしてこの娘が苦難に見舞われなければならないのか。――このあたしではなく。
あのおぞましき「怪異」……「明日を奪うもの」たちが刻んだ恐怖は、今もこの身を蝕んでいる。
けれど、そんなことはどうでもいい!
この物静かな――今は文字通り無表情となってしまった――かけがえのない少女が、また、微かな笑みを向けてくれるならば!

そしてその内にメアリは、己の内に在る「熱く滾り焦がれるもの」を自覚した。
かつてと変わらない薄桃色の頬。そして金糸に彩られたシャーリィの、薔薇の蕾に魅入られたのである。
……ただふたりきり、ロンドンの喧噪からは置き去りにされたこの部屋に自分達はいるのだ。
今ならば誰もいない。あの忠実なメイドも、主の守護という役目を預けたまま、もうしばらくは戻らないだろう。
それに「唯一生き残ったおとぎ話」とやらが、《眠り姫》ではないと誰が言える?

「あたしは王子様ではないけれど……いいよね、シャーリィ?」

……そうして得られる筈のない許しを願って、メアリは、また一つ罪を重ねた。

名前: E-mail(省略可)

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